――無法地帯とはたとえばどんなところでしょうか?
廣瀬:グルジアのアブハジアや南オセチアはアフガニスタンと近いので、麻薬の密売ルートになっていたりします。また、沿ドニエストルはロシアの武器庫として悪名が高いです。
――未承認国家は今後増えていくのでしょうか? 異なるケースかもしれませんが、昨年スコットランドでは独立を問う住民投票が行われました。
廣瀬:スコットランドの住民投票では否決されましたが、その時にプーチンが盛んにクリミアと同じだと言っていました。しかし、クリミアの場合、本国であるウクライナが承認していないので違法な住民投票です。スコットランドの場合は、政府が承認した住民投票ですから、そこがクリミアとの決定的な違いです。
ヨーロッパでは、いくつか地域独立の動きがありますが、政府が承認した住民投票で仮に可決された場合、合法的に独立するインセンティブがどれくらいあるか、正直疑問です。大抵の未承認国家は、パトロン国家があるからこそ生きていけますが、ヨーロッパの国から独立した国を支援するインセンティブが他の大国にどれくらいあるかですね。ハッキリ言えば、他のヨーロッパ諸国との関係が悪化すると考えられます。
――現在、未承認国家として存在する国々は今後どうなるのでしょうか?
廣瀬:本書にも解決のシナリオの可能性をいくつか書きましたが、非常に難しいですね。一番あり得るのはこのままの状況が続くことでしょうか。また、解決する可能性が高いのはコソボだと思います。セルビアはEU加盟を目指していますが、その大きなネックとなっているのがコソボ問題です。EUに加盟するためにはコソボを諦める、つまりコソボの独立を認めるしかないでしょう。今、セルビアはEUとロシアを天秤にかけているのです。セルビアのエネルギー関係のインフラはほとんどロシア資本下にあり、ロシアとの関係を切れない状況にあるのも事実です。コソボを守るためにEUと決別する覚悟も少なからずあると思いますが、セルビアは大きなジレンマに苛まれているはずです。
――あらためて最後に、未承認国家とはどんな存在でしょうか?
廣瀬:ここ数年のウクライナ情勢を理解するには、未承認国家について理解しないとなかなか難しいと思います。また、最近では「ISIS(「イスラム国」)は未承認国家ですか?」と聞かれることがあるのですが、いくら国と自称していても明らかに違います。
また、未承認国家という概念は、日本人にあまり共有されていません。そもそも国家について立ち止まって考えることも少ないと思います。だからこそ、国家に近いけれど、国家でない未承認国家をクリアにすることで、あらためて国家観もクリアになるのではないでしょうか。そう考えると、未承認国家は現代の重要なキーワードではないかと感じます。
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