2024年4月20日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2015年2月13日

 一方で実は、ロシア側は、06年とも08年とも言われていますが、その頃からクリミアをいつか編入するための準備をはじめていたともいわれています。

――それは武力以外での方法でしょうか?

廣瀬:ひとつには、その地域の政治家のトップを親ロシア的な人間に替えるように働きかけます。他にも日本では馴染みがないのですが、旧ソ連時代から存在する政治技術者を送り込みます。これは、組織ではなく個人で、影からこっそりと別の地域の政治を扇動するのです。職業を偽り、その地域に侵入し、たとえばクリミアなら「ウクライナに残るより、ロシアに編入されたほうが年金を多くもらえる」とか、「ウクライナ政府はこんな悪いことをしている」と言ったようなことをささやき、段々とまわりの人たちを洗脳していきます。そうした下準備が整った14年に、まさにロシアにとって重要な局面が訪れ、編入を決行したといえます。そしてウクライナ東部への介入も同じ論理で考えられるでしょう。

 その重要な局面とはまず、ウクライナで民衆による「革命」により親ロ的なウクライナのヤヌコビッチ大統領が失脚したことです。プーチン大統領は、ウクライナが一気に新欧米路線を進めていくことを恐れました。

 また、14年にはアメリカがウクライナのシェールガス開発に着手する予定となっていましたが、ウクライナ危機を受けて結局撤退しました。ロシアはアメリカのシェール革命を苦々しく思ってきましたし、その波が勢力圏に及ぶことは耐え難かったことでしょう。

 そういったさまざまな情勢により、ロシアはクリミアやウクライナ東部で進めていた準備を実現に移したといえます。

――未承認国家は現在の国際政治の中で、どんな存在なのでしょうか?

廣瀬:台湾は、ほとんど国家と見做されることもありますし、コソボもさまざまな問題があり国際統治下にありますが、ほぼ国家としての存在感を確保しています。また、パレスチナも国連で確固たる地位を確保しつつあります。しかし、その他の国々はグレーゾーンで、基本的には無法地帯と言えるところもあります。自分たちで勝手に神話を作り、それを教科書に載せ、子供たちを教育して洗脳していく未承認国家も少なくありません。

 ただ、未承認国家と言っても色合いはさまざまです。たとえば北キプロスは、トルコの戦略で、ヨーロッパの大学の支部を誘致し、安く留学できるようにし、教育のハブとしての立場を確立しようとしています。


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