「よく寝た」と感じても、
体は寝不足解消していないことも
睡眠に関わる問題として睡眠不足も大きい。不眠症が「眠ろうと思っても眠れない」症状であるのに対し、睡眠不足は「眠れるのに起きている、あるいは起きなければならない」といった状態を指す。病気とはいいがたいが、「睡眠不足症候群」とよばれることもある。
「睡眠不足については、短期と長期でのリスクを分けて考えるべきです」と、三島氏は話す。
1、2日や1週間くらいの短期での睡眠不足のリスクとはなにか。
「居眠り運転などの事故のリスクは上がりますし、集中力が落ちて生産性が低下します」
さらに「若い人ではいらいら感が起き、その感情を抑えづらくなります」と三島氏は加える。
三島氏が率いる同センター精神生理研究部は、2013年2月、「睡眠不足で不安・抑うつが強まる神経基盤を解明した」という内容の論文を米国の科学誌に発表した。ウィークデイに相当する5日間にわたり睡眠不足が続いた人が、他人の恐怖表情といったネガティブな刺激を受けたとき、脳の左扁桃体や腹側前帯状皮質といった部分の働きが弱くなり、不安や抑うつ傾向が強まることがわかった。“寝不足でいらいら”というのは多くの人が経験しているだろうが、そのしくみが解明されたわけだ。
一方、睡眠不足の長期的なリスクとはどのようなものか。「やはり、肥満をはじめ、糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病のすべてが悪化します」と、三島氏は答える。
睡眠不足についても、生活習慣病との関連は一筋縄ではないようだ。まず、2、3日の睡眠不足で、食欲を高めるグレリンというホルモンが活性化するなどして、つい食べてしまう。これが長期的に続くと肥満を招き、さらに生活習慣病ももたらすといった筋道が一つある。
だが、肥満を介さなくても、体の脂質を貯めこまないようにする代謝機能に異常が起き、ダイレクトに生活習慣病のリスクを高める場合もあるという。
ここで、三島氏が重要な指摘をする。ウィークデイの睡眠不足を、週末にたっぷり寝て補った気になっているが、すべてを回復できるわけではないということだ。