2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2015年2月20日

 こうしたスイスが国際的な競争に勝ち抜いてきたのは、著者の指摘するように、「イノベーション」が重視されてきたことや、欧州の中でも例外的に長年にわたって安定している政治環境があったことは間違いないだろう。国内外から人材や企業を呼び込み、大学と産業界が密接に連携して共同研究を進めてきたことも大きな要因だ。

「スイス株式会社」は持続可能か

 もちろん課題もある。著者も触れているが、スイスを代表する大手金融グループUBSはリーマン・ショック後、破綻の危機に瀕し、政府の支援によって経営を再建した。また長年、厳格な守秘義務を売りにしてきたスイスの銀行についても「現在は守秘義務のカベは崩れつつあり、もはやスイスの銀行だけの利点ではなくなっている」と著者は指摘する。グローバル化が進む中で、スイスの銀行を利用する自国民の脱税に関する外国政府からの圧力は高まっている。医薬品も主要な特許の期限切れにともない、後発医薬品業界の台頭なども目立っている。

 2014年は日本とスイスが国交樹立してから150周年で、様々なイベントが行われた。日本は高級なスイス時計が多く売れる主要市場であり、ネスレのカプセル型コーヒー「ネスプレッソ」は日本で大ヒットしたことをきっかけに世界に広がり、ネスレの業績を支えている。こうしたことを考えるとスイスと日本は長年にわたって経済的に密接な関係を結んできたことがあらためてわかる。

 本書の終章で著者は現在のような競争力を持った「スイス株式会社」が持続可能なのかを考察している。現代の競争の速度や激しさを認めた上で、スイスにも他の国と同様に様々な問題がありながらも、「たとえ永遠でないにせよ、スイス経済の奇跡は持続可能だ」と前向きにとらえている。様々な条件がそろったことでスイスの現在の成功があり、スイスがすべての国のお手本になる訳でもない。だがそうした点を踏まえても、スイスの歩みが他の国にも参考になる要素は多くある。まさに凄いスイスの競争力の本質を本書は丁寧に教えてくれる。

  
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