常総学院ラグビー部監督として、真っ黒に日焼けしながら毎日部員と共にボールを追い掛けている石塚にとって、彼らと同年代でありながらも水府学院に収容されている少年たちのことが気がかりだった。
2009年5月に行われた水府学院タグラグビー講座。
「汗をかく前に、30分ほど皆さんにお話ししたいことがあります」
石塚は水府学院で講座を行う際、実技の前に30分間の講話を行った。
元ラグビー日本代表・石塚武生氏
「栄光よりも怪我や挫折、心の痛みや孤独感が人として大切なことを教えてくれた……」
具体的なエピソードを交え、時に無様な自分をさらけ出しながら、切々と説く石塚の話は胸に響く。目に涙を浮かべながら訴える講師に対し、涙をぬぐいながら聞き入る複数の院生の姿を見た。
石塚と彼らは講話が終わる頃になると不思議な信頼関係ができていた。そして時間の経過とともに少年たちから固さが無くなり、「パス!」という声も弾んでいった。
講座の最後には「これから少しだけ身体をぶつける本物のラグビーをしよう」と言って、防具を身に着けず、80名を超す院生全員から体当たりを受けた。頑丈な上半身が赤黒いあざだらけになるまで「よし来い! もっと来い!」と彼らを励まし身体を張った。
しかし年2回の講座では、石塚が彼らにできることは限られていた。
そこで考えたのが「この講座を社会と繋げるにはどうすればいいのだろう?」ということだ。それがクリアすれば年に2回の講座も生きてくると考え、2009年7月末に監督室で筆者を相手に企画案を練った。その後「夏合宿のあとにいっしょに小沼先生に相談に行こう」と約束した。
しかし、その6日後、石塚は突然死症候群によって天に召されてしまったのである。