今回の改革では排除されぬ全中の影響力
全中監査を強制監査ではなくしたことで、全国団体の統制は幾分弱まる。しかし、全中の政治力は、依然として排除されない。全中は系統農協などから80億円、都道府県の中央会が徴収するものをいれると300億円超の賦課金を、徴収してきた。
手つかずの都道府県の中央会は、依然として強制的に賦課金を徴収できる。都道府県の中央会は全中の会員なので、都道府県の中央会が集めた賦課金は従来通り、全中に流れて行く。
全農を中心とした農協は、肥料で8割のシェアをもつ巨大な企業体なのに、協同組合という理由で、独禁法が適用されない。法人税も安いし、固定資産税も免除される。メリットが大きいのに、全農等が株式会社化することはない。
准組合員の組合利用を、正組合員の2分の1とするという提案は、見せ球だった。准組合員がいなくなれば、地域農協は融資先に困ってしまう。准組合員が維持できるのであれば、全中監査などどうでもよいという判断になったのだろう。
しかし、准組合員の方が多い「農業」協同組合というのは異常だ。今のJA農協の農業部門は解散させ、銀行・保険事業や生活資材供給を行う地域協同組合とすべきだ。必要があれば、主業農家が自主的に農協を設立するだろう。それが本来の協同組合である。
また、主業農家も零細な農家も、同じく一票の決定権を持つため、農業をやっているとはいえない多数の零細農家の意見が、農協の意思決定に反映されてしまう一人一票制の改革やJAの地域協同組合化など、本質的な部分はまだ提案もされていない。これで、農協改革を終わらせてはならない。
農林水産省、農協、農林族議員間に、これまでも争いはあったが、表面化したことはなかった。しかし、今回農協は、農林水産省の変節を激しく指摘する等、農林水産省と全面対決している。農協改革が期待する成果を上げなかったとしても、これに大きな亀裂を生じさせたことの意義は少なくない。
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【特集】滅びゆく農協 岩盤規制と農業の行方
・PART 1 弱体化する農協 離れ出した農家
・PART 2 60年ぶりに農協改革の実態
・PART 3 改革の本丸「准組合員問題」の真相
・PART 4「脱農化」した農協に必要な更なる本質的な改革
農村票を武器に戦後最大の圧力団体といわれてきた農協に改革のメスが入った。政治の介入を拒み続けてきた農協に何があったのか。巨大組織・農協の実態に迫る─。