2024年11月21日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年3月19日

 中国は、力と名声を高めつつある、ありふれた一党独裁国家に過ぎない。対中関係は、極めて競争的となり、経済的利害により影響を受け、異なる政治的価値が対立することになろう。これは旧型の大国間関係である。米国の対中政策は新たなスローガンを必要としない。必要なのは、紛争という手段を用いずにパワーと影響力をめぐって競争しながらも協力分野を探す、よく計算された外交政策である、と論じています。

出典:Daniel Blumenthal,‘Old Type Great Power Relations’(Foreign Policy, February 11, 2015)
https://foreignpolicy.com/2015/02/11/old-type-great-power-relations/

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 米中関係を覇権国と台頭する新興国のパワー・ポリティクスと捉えるのは、リアリスト的見方としては常識的なものです。その意味では、この論説は、新しい論点を提起しているわけではありませんが、「新型の大国関係」というものは存在せず、そのような中国のスローガンに惑わされるべきではない、との論旨は的を射ています。このような議論が米国の専門家の間でいまだに真剣に議論されているところに、ややもすれば中国を「夢想的にとらえる」米国人の限界があらわれていると見るべきでしょう。

 習近平は「太平洋は米中の両国が共生するのを受け入れるだけの広さがある」と言いましたが、その見方の中にこそ、中国側の真意が見えています。これは、胡錦濤時代の末期に解放軍将校が、米国防長官に対し、米中はハワイを起点にして、太平洋の東側を米国が、西側を中国が分割して管理してはどうか、と述べたことと軌を一にしています。

 中国が「新型の大国関係」という時、何よりも、それは米国が中国の「勢力範囲」を容認することを狙っていると見るべきでしょう。例えば、まず第一に、東シナ海、南シナ海、さらには自らが規定する「第一列島線」内を自らの内海のように扱うことを意図しているに違いありません。さらに重要なことは、中国が自称する「核心的利益」の対象である台湾、チベット、ウイグルについては米国がそれらを中国の内政問題として干渉しないことを意図しているものと思われます。この三者の中では、実質的に中国の統治下にない台湾の扱いは格段に重要です。

 オバマ政権が「新型の大国間関係」論を全面的に拒否しなかったことは、米中関係に中国のスローガンを持ち込む余地を与え、大きな失敗でした。ただ、オバマ政権といえども、中国が既存の国際規範に遵うよう、より強く要求するようにはなって来ています。今年の一般教書演説でも、「世界で最も繁栄しているアジアにおいて、中国にルールを決めさせてよいのか」と述べています。中国が力をもって新しい国際規範を構築しようとすればするほど、現状維持勢力として米国は強い態度で臨むべきであり、また、そうせざるを得なくなるでしょう。

  
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