北朝鮮の経済がうまく行っているように見えることは、制裁強化論にとっては、制裁が効きにくくなるので、悪いニュースである。そうなると、北朝鮮の経済と核開発を止めることができるものは何もない、と論評しています。
出典:Scott Snyder ‘North Koreans are No Longer Starving’ (National Interest, February 18, 2015)
http://www.nationalinterest.org/blog/the-buzz/north-koreans-are-no-longer-starving-12275?page=show
* * *
スナイダーの指摘する3点、(1)金正恩の農業市場改革が一定の成果を上げつつあるように見え、北朝鮮の食糧事情がここ数年改善していること、(2)食糧不足分は、輸入により商業的に調達するようになってきていること、(3)2013-14年には、ロシアが最大の二国間食糧支援国になったことは、注目していく必要があります。更に、スナイダーは、経済全般が安定してきていると指摘します。
北朝鮮の農業改革により、農民は、収穫の3割程度を市場で売ることができるようになり、生産のインセンティブがあがっている、北朝鮮は鉱物資源を輸出して財源を獲得している、自由市場経済が結構存在すること等が言われています。変化を過大評価すべきではありませんが、北朝鮮経済も、貿易や投資を通じて、限定的に、緩やかに、開放化に向かって動いていると見られます。ひと頃、年に約3,000人の脱北者があったのに対し、金正恩体制後の2012、2013年にはこれが1,500人程度に減っていると言われますが、これは経済の改善に起因するとの見方もあります。
中朝関係を反映してか、最近、金正恩は、ロシアに接近しているように見えます。ロシアの対北影響力が増大しているかもしれません。スナイダーは、ロシアが最大の食糧支援国になったと述べています。昨年11月には、金正恩の側近である崔龍海党中央委常務委員が特使として、金正恩親書を携行して、ロシアに派遣され、プーチン大統領やラブロフ外相と会談しました。北朝鮮は戦闘機の供与を求めているようですが、報道によれば、貿易や投資などが重要議題になったようです。更に、最近、在北朝鮮ロシア大使が、プーチンと金正恩は定期的にメッセージをやり取りしていると述べたことが報道されています。北朝鮮は、戦後、常に中国とソ連(ロシア)の間で上手くやってきたことを思い出します。5月には金正恩が、戦勝70周年記念行事出席のため、訪露します。
スナイダーは、食糧、経済事情が改善していると思われる状況の中で、北朝鮮のミサイル・核開発を止めるものは何もないと述べて論説を終えています。北朝鮮が不安定になるのも困りますし、余りに安定化するのも困ります。また、時が経てば経つほど、核開発する時間を与えてしまうことにもなりかねません。昨年12月のサイバー攻撃以来、北朝鮮に対する米国の姿勢は硬化しています。六カ国協議のメンバー間の関係も複雑です。日本は、核、ミサイル、拉致の包括的解決を目指し、日米韓との連携を強化するとともに、中国、ロシアの協力を得る必要もあるかもしれません。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。