「選択により」という表現がなくなった
株式会社化は、唐突に出てきたものではなかった。与党協議のテーマになっていて、2014年6月の「農協・農業委員会等に関する改革の推進について」という文書では、「農協出資の株式会社(株式は譲渡制限をかけるなどの工夫が必要)に転換することを可能とする」という表現が使われていた。
それがたたき台となり、政府、与党、JA全中の協議が重ねられた。2015年2月9日、合意に達して「農協改革の法制度の骨格」という文書を公表した。全農の株式会社化については、「その選択により、株式会社に組織変更ができる規定を置く」という表現が使われた。
それを受けて農水省が農協法の改正に踏み切った。2015年4月3日、国会に提出した改正法案では、73条2項で、「出資組合又は出資農事組合法人は、その組織を変更し、株式会社になることができる」という条文になる。
つまり改正法案では、「選択により」という表現が抜け落ちたのだ。全農の株式会社への転換は、選択ではなく必定路線という読み方ができる。つまり全農は、法案を目にして政府に欺されたと思ったのだろう。
TPP交渉はどうなる?
成清発言が飛び出す仕掛けのようなものがあった。全中専務から政界入りした山田俊男参院議員のブログだ。政府が、農協法改正案を国会に提出する4日前の3月30日、農協改革法案を総括して、読み方によれば、組織に決起を促すようなことを書いておられた。
「農協法の世界に『株式会社』への転換を入れ込んでしまったことは、長い歴史を持つ協同組合運動からみても大問題なのであって、協同組合の否定とも言うべき事態です」
これが全国の農協関係者にパッと拡散したようだ。
官邸は、地方の農協組織にシンパが多い山田議員を徹底マークしていた。農協改革を論議する政府与党の内輪で少人数の重要会議(インナー会議)からも外していた。2月24日付けブログには、その悔しさが綴られている。
「かつては農林部会長、今は部会長代理ではあるものの、少人数のインナー会議という形での党と政府との論議の場に参画させてもらえず、周辺でうろうろしてきたこともあるのでしょう」