株式会社として全農が組織を維持できない理由
全農は、株式会社化には一貫して反対してきた。同理事長が、公(おおやけ)の場で反対を表明するのは、2014年11月の内閣府規制改革会議に呼ばれたときだった。
「全農の組織からすると、この株式会社化というのは組織の最大重要事項になり、800を超える会員総代の合意を取り付けないと前に進まないテーマです。おそらく3分の2以上が必要となります」
ここでは手続き論を理由にした。でも本音は違うところにある。株式会社に転換させられたら、JA全農は組織を維持できないと恐れている。その理由は推測するしかない。思いつくままに列挙すると、こんなものになろうか。
【独占禁止法の適用除外】
株式会社に転換すれば、独占禁止法の適用除外の対象から外れてしまう。全農がもっとも不得意とするマーケットでの競争にスクラッチで臨むことになる。彼らの得意芸は、行政や補助金の力を使って経済連や農協を囲い込むことだ。競争と耳にしただけで足がすくんでしまう組織風土がある。独禁法の適用除外とはいえ、すべてが適用除外というわけではない。公取委が示したガイドラインに反したものや、目に余るものは、一番重い排除措置命令を受けること度々だ。
【税制上の優遇措置】
協同組合ということでさまざまな税の減免措置がある。株式会社になれば、その既得権を失う。分かりやすいのは、JA全農の本部がある東京・大手町の一等地にあるJAビル。全農が事務所として使っているスペースは、協同組合ということで固定資産税はかからない。その恩恵は、全国にある全農施設のすべてに及ぶ。法人税も株式会社よりも安い。
【互助システムの崩壊】
誰も指摘しないのが、全農が互助システムをビルトインした組織であることだ。昔は都府県経済連からなる全国組織だったが、いまはその35都府県にあった経済連を統合した。それを都府県本部と呼ぶ。そのいくつかは赤字を出していて、黒字の本部がそれを救済する。互助システムと称したのは、このことだ。
株式会社に転換すると、その互助システムが機能しづらくなる恐れがある。ある本部が損失を出すと、全農本体が貸し付けという形で赤字を穴埋めすることである。新会社法の規定に沿った部門別会計が適用されると、暗黙のうちに救済していたことが白日の下にさらされるからだ。最悪の場合は、救済側の本部が全農から脱退してしまうという事態もあり得る。株式会社への転換は、全農にとって絶対に避けたい事態だ。