この目標値に対しては、共和党支持者、米国商工会議所などから、「競争力のある石炭火力からの発電量の減少は、電気料金の上昇に結びつき米国産業の競争力に大きな影響を与える。さらに、他の多くの国が厳しいCO2規制値を課していない以上、米国を含む一部の先進国だけが不利になる」と反対の声があがっている。
2014年6月には、既設の石炭火力発電所を含む発電部門でのCO2削減案をEPAが発表した。目標とする数値は、発電設備比率などを考慮し州毎に設定されたが、全米では05年比30年に30%削減とされた。
新設石炭火力のCO2規制の詳細は今年1月に発表される予定であったが、夏頃まで延期するとEPAは発表した。既存火力からのCO2規制に関しては16年6月までに各州政府が案をEPAに提出することになっている。1年間の提出期限の延長は認められるが、削減に十分な案でないとEPAが判断した場合にはEPAが州政府に代わり案を作成することになる。
海外石炭火力への影響
オバマの気候変動政策は、国内の石炭火力対策に留まらず、途上国の石炭火力発電所向けの融資も対象にした。13年6月に発表された対策には、米国の公的資金による途上国の石炭火力発電所向け融資の原則禁止が含まれていた。それまで米国輸銀はインドの400万kWの石炭火力向けに9億1700万ドル、南アの480万kWの石炭火力に8億500万ドルの融資を行うなど、石炭火力建設を支援していたが、以降はCCSを附設する発電所でなければ融資は不可能になった。
さらに翌7月には、世界銀行も途上国の石炭火力向け融資の原則禁止に踏み切った。世銀は2011年に石炭火力向け融資の是非の検討を開始したが、中国などの反対にあい検討を中断したと言われていただけに、米国政府の決定が世銀にも大きな影響を与えたものと思われる。
欧州投資銀行も7月に、米国政府、世銀の決定に従い、1kW時当たり550グラム以上のCO2を排出する石炭火力への融資禁止を発表する。CCSを設置するか、大量の木片のようなバイオマスを混焼しない限り達成が困難なレベルの排出量だ。13年12月には欧州復興開発銀行も、石炭火力への融資を原則禁止すると発表した。
米国エネルギー省の予測では、世界の石炭火力の発電量は2010年の8.1兆kW時が、新興国を中心に30年には12.3兆、40年に13.9兆と増加するとされている。その資金を欧米の国際機関が融資しないとなると、新開発銀行のように石炭火力への融資を行う機関をBRICS諸国が設立するのも無理はないが、融資禁止の口火を切った米国が石炭火力への融資を行う金融機関を支援することは考えにくい。米国が銀行の内部に入り影響力を行使するにも限度があるだろう。新興国の今後のエネルギーインフラの中心は依然として石炭であり、変えることは困難だ。