2024年12月4日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年5月18日

 英仏伊独、その他AIIBへの参加を決定した国々は祝福されるべきである。欧州とアジアの他の国々が参加することで、インフラ改善の助けとなり、中国と同様、アジアの他の地域の生活水準を上げ得ると期待される、と論じています。

出典:Joseph E. Stiglitz,‘Asia’s Multilateralism’(Project Syndicate, April 13, 2015)
http://www.project-syndicate.org/commentary/china-aiib-us-opposition-by-joseph-e--stiglitz-2015-04

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 AIIBを専らマクロ経済問題の視点から論じた論説です。

 米国のAIIB反対に対するスティグリッツの批判のうち、米国が反対しているのは、米国が多極化が進む世界において、G1であり続けたがっているからであるという点は一理あります。中国は今や世界第二の経済大国であり、それが世界経済のガバナンスに反映されてしかるべきです。しかし、米国は、例えばIMFで中国により大きな議決権を与えることに反対しています。もっとも、反対したのは米政府ではなく米議会です。米国は世界経済に占める中国の地位に見合った役割を中国に認めるべきですが、世界経済の現実を直視しようとしないのは米議会なのかも知れません。

 AIIBがアジアの膨大な投資需要にささやかながら貢献するものであるという点は、その通りです。スティグリッツは、現在の世界経済の問題は、金融システムが世界的に過剰な貯蓄と過小な投資を仲介できていないことであると言い、その点AIIBは重要な役割を果たすと言っています。ただ、世界的な貯蓄過剰の中心は民間資金であり、AIIBが扱うのは公的資金です。AIIBが世界的貯蓄過剰の軽減にささやかながら貢献するというのはどうでしょうか。スティグリッツはノーベル賞を受賞した経済学者ですが、疑問を呈さざるを得ません。

 スティグリッツの論は、中国が専ら経済的観点からAIIBを創設すると言っているに等しいですが、やはり、中国によるAIIB創設の政治的意図が考察されなければなりません。中国の意図が、アジア地域での影響力の増大を目指していることは間違いありません。AIIBの創設自体、中国の影響力の増大を意味しますが、今後中国がさらに影響力を増すようにAIIBを運営しようとするか、注視しなければなりません。AIIBを専ら経済問題として捉える、スティグリッツの論は、片手落ちと言えるでしょう。

  
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