朝食にカレーという新しい提案だ。温かいご飯なら、カレーをそのままかけて食べられるという手軽さや、「朝」を意識した素材と味付けが評価されている。2009年2月に発売され、当初3カ月は出荷計画を5割上回るペースとなり、激戦続くレトルトカレー市場の大型新人となった。
普通タイプの中辛と「野菜キーマ」中辛の2種類が販売されている。通常のレトルトカレーに比べると小ぶりだ。しかし、茶碗に普通に盛ったご飯や大きめのトースト1枚と量的にうまくバランスする。
朝食向けならではの工夫も随所に織り込まれている。まず、1分1秒が貴重な家庭での朝食シーンに合わせ、スピードを重視した。レトルト食品では当たり前のお湯で温めるといった手順を省いた。ご飯が温かければ、そのまま乗せて混ぜると、スムーズにカレーとご飯がなじむ。味もカレー独特の刺激を適度に抑え、かつカレーならではの爽快さが口に広がる。
商品企画を担当したのは、マーケティング本部レトルト・低温食品部のチームマネージャー、船越一博(39歳)。大学では農学部で食品工学を専攻し研究員として1993年に入社、03年から商品開発部門に転じている。自ら「洋食大好き人間」と言い、入社5年目の97年には「第1期生」として東京の著名なフランス料理店で修業するという機会にも恵まれた。
開発のヒントはイチロー選手から
ある日、フランス料理を元に「こんな製品をつくりたい」と上司に提案したのが修業のきっかけだった。上司から「では、フランス料理店の厨房を見たいか」と言われ、同僚と2人で喜び勇んで出かけると、この店での研修も組まれていたのだ。まず、ハーブの葉を枝から丁寧にはがす作業から入り、料理の仕込み、調理とひと通り学ばせてもらった。
会社としては、ソースを中心に最高レベルの店の厨房の味を、工場のスケールでも再現できる人材を育成する狙いだった。修業は4カ月ほどと短期だったが、この時の知見は「カレーやシチューなど主力商品の味に反映させることができた」(船越)。そうした成果から、実験的に始まったこの修業制度はその後、継続されるようになったという。
船越のこうした経験は商品開発部門に転じて、より生かされており、今回の「朝カレー」は、カレー好きの子ども人口が減少するなど押し寄せる逆風の時代に、トップメーカーが打ち出した新たな提案となった。