2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2015年5月28日

 日本国内では、地方企業や中小企業だけでなく政府内からも120円を超えるレートは、やや行き過ぎではないか、という懸念が広がりつつある。ドル70円台という超円高を修正することは必要であったが、100円を超えてからの円安誘導は日本経済にとってマイナス材料も提供し始めているからだ。

 例えば原油安という日本にとっての神風は、円安のお蔭で恩恵は半減してしまった。濡れ手に粟の輸出企業や笑いが止まらない株式市場の陰で、円安による輸入コスト増に泣いている中小企業は全国に多々存在する。円安のしわ寄せは家計にも及んでいる。個人消費が盛り上がらないのは、消費増税だけが理由ではないのだ。 

円安・株高ムードで関心が
失われた成長戦略

 円安・株高のムードが景気回復感を醸成する中で、政府も成長戦略への関心をすっかり失ってしまったように見える。本来は、0%近くまで低下してしまった日本の潜在成長率を引き上げるために様々な構造改革を行うはずであったが、安倍政権誕生以降何の具体策も出ていない。それどころか、成長シナリオが描かれない一方で、財政再建の議論ではプライマリー・バランス黒字化目標達成のために3%成長路線が当然のように盛り込まれる、という不可思議な「永田町現象」も起きつつある。

 だが政府もさすがに、130円近いドル円は「悪い円安」として放置することは出来ないのではないか。いずれ口先介入で相場を冷やすこともあるかもしれない。また日本の貿易赤字が縮小傾向を辿っていることも、円安にブレーキを掛ける材料になり得る。

 一方で米国サイドも「強いドルは米国の国益」とは言いながら、本音はドル高に困惑している。TPPに関して、米議会には依然として「為替操作禁止条項」を入れるべきだと主張する声がある。それが円安を意識していることは自明だろう。

 市場の流れは確かにドル高に傾いている。だが、その持続性を読むには、両国間の「政治」を注意深く見守る必要がある。金利の差異が作ってきた為替トレンドが、政治的圧力によって一転することは、決して珍しいことではないのだ。

  

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