豪ニューサウスウェールズ大学のCarlyle Thayerも言うように、中国は、単に自分たちの主張の正しさを伝えるだけでなく、ソフトパワー等を介して、東アジアにおける中国の支配的役割という考えを周辺諸国が「徐々に」受け入れるよう説得しようとしているのである、と報告しています。
出典:‘Making waves’(Economist, May 2-8, 2015)
http://www.economist.com/news/china/21650150-china-tries-strengthen-its-hand-dangerous-dispute-making-waves
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中国が最近、米国ヴァージニア州に設立したシンクタンクは、南シナ海での岩礁埋立て、滑走路建設など領有権拡張の動きを学問的アプローチで糊塗しようとするものです。エコノミストの本論評は、そのことを的確に指摘しています。
もともと中国の南シナ海での領有権主張は、1947年の蒋介石政権下の主張(「9点線」の主張)を自分たちに都合の良いように解釈したものであり、もとを正せば、「朝貢・冊封時代」の領域観に基づくものです。それは、近代「国民国家」の主権概念に基づくものではありません。
最近の中国は、南シナ海が「古代以来中国のものであった」という常套句で自分たちの独善的主張を説明しようとしている。それは、尖閣を含む東シナ海や台湾についての中国の主張と軌を一にしています。
5月8日に米国防総省が公表した「中国軍事に関する年次報告書」によれば、中国が南シナ海で進める埋立地の面積は、昨年12月以来4カ月の間に4倍に増大したことが明らかになっています。
4月にASEAN諸国は、クアラルンプールでの会合において、中国の南シナ海における建設工事が平和と安全を脅かすものとして異例の強い声明を出しました。中国としては、ASEAN全体との間で共通の「行動基準」を作ったり、国際間の仲裁裁判に持ち込んだりすることを拒否し、ASEAN関係国(とくにフィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシア)との間で各個撃破の手段を通じて、反対の声を封じ込めようとしているように見えます。
日本としては、南シナ海や東シナ海の領有権問題はあくまでも「国連海洋法条約」という法とルールに則り対処されるべきである、との立場を堅持し、米国とともにASEAN諸国への支援を強化する必要があると思われます。
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