ISの今回のテロの狙いは何なのか。フランスのテロは、同国が米主導の有志連合の空爆作戦に参加していることへの報復の意味合いが強い。クウエートの事件は、背教者と見なすシーア派のモスクを攻撃することで、スンニ派との宗派紛争を激化させて混乱を作り出すことだろう。チュニジアのテロは、外国人観光客を殺害し、アラブの春で唯一民主化へゆっくりと動いている同国に打撃を与えて、元の不安定な状況に戻すのが狙いだ。
ISにはその上で、国家樹立から1年という記念日(6月29日)を前に、自分たちが世界各地でテロを起こすほどに伸張し、有志国連合の空爆にもかかわらず強固な組織を維持していることをあらためて誇示する意図があったと見られている。
ISは2軍扱い 抜かった連携対策
ISはもともと、予言者ムハンマドが神の啓示を受けた聖なる月、ラマダンを行動の時として重要視してきた。昨年は、ラマダンの初日に国家の樹立を宣言、その直後にムハンマドの後継者、カリフを自称する指導者のバグダディがイラクの占領中のモスルに現れ、ジハードを呼び掛ける説教を行った。国家の樹立を宣言する前の一昨年のラマダンでは、拷問で悪名高かったイラクのアブグレイブ刑務所を大胆に襲撃して過激派を解放した。
米国の軍事問題の研究・分析機関である「戦争研究所」は、テロ事件前に発表したISの行動予測について「複数の国で同時多発テロの起きる危険性がある」とし、ラマダン期間中に各国がIS対応で一時的な強化をするよう求め、そうしなければ、暴力的な結果が生じる、と警告していた。
オバマ大統領は1年前、「2軍チームが(名門バスケットチーム)ロサンゼルス・レイカーズのユニフォームを着たとしても、コビー・ブライアント(レイカーズの名選手)になれるわけではない」と述べ、ISを2軍として軽視していた経緯がある。
もし大統領ら米政府指導部がISの主張や行動様式をきちんと理解して的確な初期対応を取っていれば、彼らがこのように急成長しなかった、との批判は米国内に今も強くある。
今回の一連のテロ事件も、ラマダンに事件を起こしてきたISの行動様式をもっと真剣に分析して国際的に連携した対応を取っていれば、各国ともより効果的な対策が取れたはずだ。ラマダンはまだまだ続く。
ISはチュニジアの事件後の声明で「次のテロがすぐに続く」と不気味な予告をしており、中東や米欧だけではなく、インドネシアなどISの信奉組織のあるアジア各国もテロ対策を厳しくすることが焦眉の急である。
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