北アフリカのチュニジア、中東のクウエート、欧州のフランスという3大陸で先週末、ほぼ同時に起きたテロ事件は、70人近い犠牲者を出すという惨事になった。過激派組織「イスラム国」(IS)がイスラムの聖なるラマダン(断食月)期間中に引き起こしたことが濃厚だが、一部では複数国家にまたがる同時テロの危険性が警告されており、対IS戦略の欠如が露呈された格好だ。
殉教すれば、天国で10倍の報償
今回のテロの伏線は3日前の6月23日にあった。IS公式スポークスマンのモハメド・アドナニが発表した声明だ。アドナニはこの中で、ラマダンを祝賀するための聖戦(ジハード)をイスラム教徒に呼び掛け、殉教すれば天国で「10倍の」報償が与えられることを確約すると訴えていた。
ちなみに今年のラマダンは6月18日から7月16日までだ……。
アドナニは昨年9月22日、米軍がシリアのIS拠点への空爆に踏み切った後、米国に同調する有志国の市民を殺害せよ、という声明を出し、カナダ・オタワの連邦議事堂の乱射、オーストラリア・シドニーのカフェへ立て込もり、パリのスーパー襲撃、チュニジアの博物館襲撃など声明に呼応したテロ事件を発生させた張本人である。
この時は、これらの事件のほとんどがこの呼び掛けに勝手に応じたいわゆる一匹狼(ローン・ウルフ)による「母国育ちのテロ」だった。
今回の3件もそれぞれ勝手にテロを起こしたのか、というとそうではなさそうだ。発生日は3件とも26日であり、午前9時半ごろにフランスのリヨン郊外のガス工場でまず爆発テロが起き、数分後に5000キロ弱離れたクウエート市のシーア派のモスクで自爆テロ、そして2時間後にチュニジアの海岸リゾート地スースの高級ホテルが銃撃テロに襲われた。つまりはほぼ同時刻に発生しているのだ。偶然というのは不自然過ぎる。
このうちクウエートとチュニジアの事件はISが犯行声明を出したが、フランスの爆発テロとの関係は未確認だ。しかし、現場にISの旗に似せた旗や、逮捕された犯人の会社の上司の切断された頭部が残されていた手口などから、逮捕された犯人はISの信奉者であることが濃厚。こうした状況を総合すると、今回の3件のテロは、ISが少なくとも「日時を指定」して指示した可能性が強い。