一方で、共働きの世帯からは「育児休業を取っても第1子を保育所に預けられる制度があるから、次の子を産む決断ができた」、「待機児童騒動で、確実に入るために子どもを生後3か月足らずで保育所に入れざるを得なかった。次は少しくらい育児休業をとってじっくり乳児期の子育てを体験して職場復帰に臨みたい」という声もある。このような状況を、どれだけ所沢市が汲み取って対応するのだろうか。
全国の自治体にとって待機児童の問題は悩みの種だ。苦肉の策として、育児休業取得者がターゲットとされ、議会などで「育休退園」の案が浮上するケースは珍しくないようだ。所沢市でも、昨年度までは、施設長の判断で育児休業中の保育を継続するかが判断されていたが、今年度からスタートした、国の「子ども・子育て支援新制度」で一変した。
この新制度で国が育児休業中の保育について、(1)次年度に小学校入学を控えている場合など、子どもの発達上環境の変化に留意する必要がある場合、(2)保護者の健康状態やその子どもの発達上環境の変化が好ましくないと思われる場合、としている。これを市が厳格運用しているというのだ。
所沢市の「育休退園」は違法か?
ただ、国は「子ども・子育て支援新制度」をスタートさせるに当たり、子ども・子育て関連3法(子ども・子育て支援法、認定こども園法の一部改正、児童福祉法の一部改正)を整備している。
国は、子ども・子育て支援の意義のポイント(基本指針)として、△「子どもの最善の利益」が実現される社会を目指すとの考え方を基本とする、△障がい、疾病、虐待、貧困など社会的な支援の必要性が高い子どもやその家族を含め、全ての子どもや子育て家庭を対象とし、一人一人の子どもの健やかな育ちを
等しく保障することを目指す、などを挙げている。
つまり、”親の就労の有無によらず、全ての子どもが保育と教育を受ける”という大きな柱があり、提訴に踏み切った保護者らは、今回の「育休退園」は違法性があるのではないかと主張している。
子どもにとって、退園させられたり入園させられたり、他の保育所や幼稚園に通い直すなどの環境の変化はどう影響するかを考えてみたい。新設園はもちろん、新年度、クラスが変わっただけで情緒不安定になる子は少なくない。
大人の都合で子どもを振り回し、その環境の変化だけでも充分、発達に影響するといえないか。日々の連続のなかでこそ成長や発達、友人関係、保育士との信頼関係が構築されるものだ。育休退園は、それが置き去りにされてしまう。
親にとっては、入園の確約がない以上は就業継続の危機が訪れることはもちろん、退園を避けようと望まぬ形で育児休業を取得する権利を放棄し、産後2か月での職場復帰が促されることになる。まだ、産後の体の回復もままならず、深夜に頻回授乳が必要な時期に保育所に預け、職場復帰することが親子にとって良いことなのだろうか。育休は、法的には親にとっての権利だが、本来は、生まれたその子どもにとっての権利と言っても良いはずだ。
「育休退園」は待機児童解消のターゲットにされやすいが、少ないパイの数合わせでしかなく、根本的な解決にはならないのではないか。社会情勢が変わった今、本来、全ての子に質の高い保育の機会が提供されるべきである。集団による保育でしか学ぶことのできないこともある。そして、子育て中の女性が就業継続することの経済効果(雇用者報酬の総額)が7兆円という国の試算もあるなかで、女性の就業継続を阻む制度が強制されるものではないだろう。
勤労の義務を果たし、納税し、国の宝となる子を育む世帯を行政や社会が冷遇しては、少子化は止まらず、経済も立ち行かなくなる。こうした状況を、どこまで所沢市が理解しているだろうか。市の担当課に取材を申し込むと、議会の終了後に取材に応じてもらえるというため、後日、詳細をリポートしたい。
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