2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年7月15日

 中国は南シナ海での中国の主権は譲れないことを繰り返し強調しており、主権に関する争いの棚上げが双方の主権の主張を維持することを意味するのであれば、南シナ海に関しフィリピン、ベトナムが主権を主張していることも認めることとなります。中国がこれを受け入れるかどうか疑問です。さらに、南シナ海では単に関係国の主権の主張が重なっているのみならず、中国が自らの主権の主張に基づいて、人工島の建設などの行動を起こしていることが重大な問題です。主権に関する争いを棚上げすることが、現状の凍結を意味するのであれば、南シナ海に主権を主張しているフィリピン、ベトナムが受け入れるかどうかという問題があります。6月28日にフィリピン大統領府報道官は、スプラトリー諸島に属するパグアサ島の滑走路の補修を当面凍結すると発表しましたが、馬英九の提案を受けてのものとは到底考えられません。

 具体的に何を意味するのかを明確にせずに、主権に関する争いの棚上げを主張しても、紛争の平和的解決につながりません。

 なお、馬英九は、中台関係を、海洋安全保障の観点からの地域の平和と繁栄を望むための3つの提案の1つの対象としていますが、中台関係が主として海洋安全保障の観点から考慮される問題でないことは言うまでもありません。中台関係が当面安定しているのは、馬政権が「台湾は独立せず」を基本政策の1つとしているためと、その間、中国が台湾との経済関係をより緊密化し、台湾の対中国経済依存度を高めることによって、政治統合の条件を作ろうとしているからです。中台関係の決め手はあくまでも政治的要素です。

  
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