2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年7月21日

出典:‘A dangerous mission in Libya requires a firm approach’(Washingon Post, Lune 16, 2015)
http://www.washingtonpost.com/opinions/a-dangerous-mission-requires-a-firm-approach/2015/06/16/9d2df416-1399-11e5-9ddc-e3353542100c_story.html

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 社説の論旨は正論といってよいでしょう。今リビアは酷いカオスになっています。中央政府は存在せず、破綻国家のようになっています。2011年のカダフィ政権崩壊後、反カダフィ勢力が分裂、期待された国内安定化は成らず、世俗派政権(国際社会が承認する。エジプト、UAEが支援)とイスラム政権(カタール、トルコが支援)の二つが敵対しています(西南部は諸グループが支配)。世俗派政権は、トリポリを失い、現在はリビアの東半分を支配し、本部を東北部の都市トブルクにおいています。暴力が拡大し、ほぼすべての大使館が閉鎖、避難しています。混乱の間隙を縫って、過激派が活動しています。アルカイダ系過激派に加えて、最近は、ISが勢力を拡大し、リビアを戦闘員確保の場(シリアのISの最大リクルート先はサウジ、その次はリビア)にしていると言われています。更に、最近は、北アフリカから欧州に向かう違法移民の集結、出発地になっています。違法移民の多くが欧州へ向かう途中に難破、死亡するなど大きな人道問題にもなっています。

 アラブの春はリビアにも及び、2011年の米欧によるカダフィ政権への空爆は、市民を同政権の弾圧から守るために安保理決議を得て行われました。当時は、人道的介入論適用の第一例としてもてはやされ、カダフィ政権の崩壊後には西欧などにも高揚感すらありました。介入を当初から強く主張したのは、英国のキャメロン、仏国のサルコジでした。オバマは、西欧に引っ張られる形で介入に参加し、オバマは、「背後からリードしている」と言いましたが、米国の関与は中途半端であるとの批判を受けました。

 必要な場合には、人道的介入は行われてしかるべきでしょう。しかし、レジーム・チェンジについては慎重な判断が必要でしょう。レジーム・チェンジだけでは、問題は解決しません。チェンジ後の政府につきプランがないと、国内は内戦になり、結局、今のリビアのように政治的、人道的コストが却って高くなります。

 これまでの経緯も考えれば、現下のリビアについては、英仏などはもっと関与すべきで、十分に関与していないように見えます。欧州出身の国連特使が和平調停をやってはいますが、英仏がもっと主導性を発揮すべきでしょう。また、ISの拡大に鑑みれば、国連としてもリビアにもっと力を入れるべきではないでしょうか。リビアはリビアの問題であると同時に、ISを通じて中東全体の問題になっているのです。

  
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