2023年1月31日(火)

オトナの教養 週末の一冊

2015年7月29日

»著者プロフィール
著者
閉じる

中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など

三木 企業会計についてアメリカの場合はどうなのでしょうか。日本のような粉飾はあるのでしょうか?

藤森 アメリカでもエンロンなど巨大企業の紛飾がありましたが、発覚後に違いがあります。アメリカは粉飾がばれると大きなペナルティを受けます。日本は今まで逮捕者が出た事案はわずかですが、アメリカでは逮捕はもちろん、巨額の課徴金や財産没収があるなど、有罪になった時のリスクが高いのが特徴です。損害賠償も大きくなるので、抑止力にはなりますが、それでもやる経営者はやってしまう。

三木 会社で仮にこのような問題に気付いている人がいたとして、そういう人の意見は、企業のガバナンスに反映されるのでしょうか。会社のやっていることが「おかしい」とおもっても、誰もブレーキを踏めないということはありませんか。まさに「御社の寿命」に出てくる社長と経理部長の話なのですが。

東芝以外に不正はないのか? 
性悪説に立ったときのコスト

藤森 これはまさに日本の企業風土です。粉飾もそうですし、パワハラとかセクハラなども内部通報制度をつくったところであまり機能していない。結局、声を上げた人が損をする風潮です。今回の東芝も当局への内部通報があったとされますが、実際にはそうしたことを躊躇するような風潮がまだあります。ですから、いま日本の企業の中で粉飾をなくそうとしても、今の仕組みではなくならないかもしれない。ここで東芝は社外取締役を過半数にすると言っていますが、果たしてそれだけで効果があるかどうかは疑問です。

 一方で、マーケットの信任という問題があります。東芝クラスの企業が粉飾まがいの決算をしていたとなると、他の会社もやっているかもしれない。性善説で見ていたものを性悪説で見ないといけないとなると、莫大なコストがかかる。上場している3000社以上の企業がウソをついているかもしれないという前提で投資家がチェックしようとしたら、コストがかかり、株など買わなくなる。だから、粉飾は関係者を逮捕して全部つかまえればいいという問題ではなく、これは別に議論が必要でしょう。

三木 「御社の寿命」が出て意外な反応などありましたでしょうか?

中村 老舗企業を紹介した部分をよく読んでおられる方が多かったのが印象的でした。人によって「この会社はおもしろい」と反応する企業が違っているのも興味深かったです。帝国データバンクのOBの「角さん」の倒産取材の様子についても書きましたが、実際の取材の現場の雰囲気を紹介できたのはよかったです。

なかむら・ひろゆき 1967年生まれ。慶應義塾大学卒業。読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員。福島支局、立川支局、経済部、政治部、ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスクを経て2014年より現職。

藤森 老舗が生き残る秘訣がわかったという意見が多かったのは確かに驚きでした。たとえば「虎屋」はみんなよく名前を知っている企業ですが、こうした企業が長年にわたって生き残るヒントがわかってよかったと読者が感想を寄せてくださったのは新鮮でした。

三木 老舗が長く続く理由として、変化に柔軟に対応してきた様子が本書でも示されていますが、これはある種、会社全体の「目利き力」とも言えるのではないでしょうか?

藤森 老舗がなぜ老舗になれたのかを振り返ると、経営者のバトンリレー、すなわち社長交代が得意だったということができます。そういう意味でいうと、東芝は140年の歴史を持つ老舗です。しかしながらここ3代にわたって、社長交代が失敗しているわけです。

 東芝という会社のつまずきが今だとすると、社長交代、事業承継がうまくいっていないのがその原因といえます。

 もう一つ重要なのが、番頭の存在です。老舗会社には番頭さんがいます。番頭と副社長で何が違うのかといえば、副社長は社長に耳の痛いことはいえない。番頭はおそらく会社でいえば、総務部長ぐらいの存在でしょうが、「社長、これはやばいよ、これは謝った方がいいよ」といった意見具申ができるかどうかが問われます。東芝でこうしたけん制が利いていたのかどうか。アクセルを踏むのは誰でもできる。重要なのはやめようとブレーキを踏める社長・役員がいるか、もしくはやめろといえる番頭がいたかどうか。東芝については全部ノーですね。

中村 東芝の歴代3社長も、ガバナンスの利いたグローバル経営を標榜していたはずです。しかし内実は「3日で120億円」みたいな、全く違うことをやっていた。このギャップは何なのか。ここにこの問題の本質というか、東芝の闇を感じるのは私だけではないと思います。

三木 東芝の件が最近の大きなニュースになりましたので、これまで注目してきましたが、それ以外で企業について最近気になることはありますか?

藤森 ユニークなアイデアやサービスを展開して急成長した企業はダメになるのも早かったりしますが、その理由は社長の自制が利かなかったから、という事例はこれまで山のようにあります。こうした企業はサービスに対する「目利き力」はあったにもかかわらず、店舗を急拡大したり、従業員を育てられなかったりして結局だめになる。

 私は会社の社長を務める人物には、いくつかとても大事な資質が必要だと思っています。一つはもうかるモノやサービスを見つける力。そしてそれを成長させるには、人材を育てるとともに、自分自身もしっかりしないといけない。番頭をつけるとか、近くに自分の考え以外のことを言ってくれる組織を設けたりしないとだめになる。急成長した企業が失敗するのはその点をおろそかにするからです。逆に経営がうまくゆく秘訣も多くありますが、変われること、人を育てられることがその柱といえます。

中村 やはり、「目利き力」に加えて究極的に経営者の資質が問われると思います。経営者は企業が成長して絶好調な時でも、おごってはいけない。おごると判断を誤ります。長く続いている会社は社長交代をうまくやっているという藤森さんのご指摘は全くその通りで、人を育てて、うまく事業を継承してゆくということも経営者に欠かすことのできない条件だと思います。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る