消えた「一括エントリー」
漁夫の利得たマイナビ
そんな学生たちの、8月以降に選考を行う大企業へのエントリー率の低さも目立っている。日経就職ナビ(17年卒向けからはキャリタス)を運営するディスコの夏井丈俊社長は、「大手は想定より20~30%エントリー数が少ない」と語る。
本誌は14年4月号で、就職ナビが主導する就活の問題点について指摘した。ナビが学生にエントリーを煽り、エントリー数の多さをクライアント企業への営業ツールとして使う。その結果、特に名前の知られた大手企業に万単位の学生のエントリーが殺到し、無意味な不合格が連発される。就活は日本の学生のキャリア形成に悪影響を及ぼしているのではないかと世に問うたところ大きな反響があった。
今年はリクルートが運営するリクナビがサイトを一新。15年卒採用では目立っていた「まとめてエントリー」ボタンはトップページから姿を消した。
その意図について、中道康彰・リクルートキャリア新卒事業本部長はこう語る。「エントリーは正式応募の前段階の資料請求にあたる。まとめてエントリーはできるだけ幅広く企業をみるべきという価値の実現であって、選考とは無関係。大量の不合格につながったという批判は遺憾だが、意図が正確に伝わっていない学生もいたかもしれないので、無意識のうちにエントリーにつながるような仕組みはやめた」。
就職ナビの変化に、売り手市場や就活長期化で弛緩した学生の意識が合わさったのか、今年の総エントリー数は大きく減少している。ディスコ提供資料によると、6月1日時点で学生がエントリーした企業数の平均は54.7社。昨年同時期(採用広報解禁後3カ月)と比べると約20社減少している。
リクナビを抜いて、今年「6冠」を達成し、ナビ1位となったのがマイナビだ。「6冠」とは、「学生登録者数、売り上げ、総エントリー数、1社あたりのエントリー数、企業数、学生が実際にどれだけ使ったかの指標、全てで1位」(浜田憲尚・マイナビ就職情報事業本部長)を獲ることを指すという。
「キャリアセンターを支援する講師役を大学に派遣して就職ガイダンスの手伝いをするなど、金銭的対価のない大学向けの地道な営業活動を長年続けてきたのが花開いた」(浜田氏)。
一方、マイナビはリクナビの失速で漁夫の利を得ただけという指摘も耳にする。「マイナビは、『イベント出展企業へ事前エントリー』といった表現で、学生がよく見るページで一括してエントリーできる仕組みをあちこちに残している」(業界関係者)。