2024年11月22日(金)

メディアから読むロシア

2015年8月21日

 さらに長期的には、イランが国際社会に復帰した場合、イラン自身のエネルギー資源に加えてカスピ海のエネルギー資源をロシアの勢力圏をバイパスして輸出するルートが出現する可能性は1990年代から指摘されてきた通りである。

 結局、ロシアにとっての国益は「弱く孤立したイラン」であり、そのためにはシリア情勢とイラン核開発問題を巡って中東が混乱し続けていることが必須であった。

 にも関わらず、ロシアがイラン核合意の成立を最終的に認めたのは、その成立を妨害する能力がロシアに乏しいだけでなく、中国に対してロシアが譲歩を迫られた結果である、というのがバーエフの見方である。

 これについてバーエフは有力な物証を示している訳ではないが、昨年の中露合同演習でロシアが初めて東シナ海での演習実施を認めたこと(ロシアは以前から日中の領土問題に深入りすることを避けるため、係争海域での演習実施には消極であった)や、今年5月の対独戦勝記念式典で中国の習主席を主賓扱いとした上、プーチン大統領がドイツのファシズムと日本軍国主義を同列に扱う演説を行ったこと、さらには今年9月に北京で開催される対日戦勝記念式典への出席を決めたこと(これらは歴史問題でもロシアが中国よりの立場に立ったことを意味する)からも、ロシアの対中譲歩は明らかである。さらにこの際、ロシアは自国が中心となって進めているユーラシア同盟プロジェクトを中国の新シルクロード構想と連携させることで中国と合意し、中央アジアの勢力圏における中国のプレゼンスを認めた。

 問題は、このような状況をロシアが全面的に認めることはないだろう、という点である。ロシアが中国への依存を強めていることは明らかだが、単に中国のジュニアパートナーとなることをロシアが認めることは考えがたい。

 そこで注目されるのが、ロシアとサウジアラビアの接近である。両国はシリアのアサド政権への支援を巡ってながらく対立してきたが、以前の本稿(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5079)でも取り上げたように、今年の春以降に急速な接近を遂げている。依然としてアサド政権の扱いを巡る両国の溝は埋まっていないが、イランの台頭が安全保障上の懸念であるという点では一致しており、(ロシア・サウジアラビアにとっての)イラン問題が両国のさらなる接近を促す可能性が注目されよう。

 また、ロシアは昨年以降、イラクへの対IS作戦用兵器の供与など、やはり目立ったイラク接近の動きを示している。これについても、イラクにおけるイランのプレゼンス増大を念頭に置いている可能性があり、この意味でもロシアの対中東戦略は要注目である。

  
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