2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年9月1日

 今日、野党・民進党の総統候補の蔡英文が「現状維持」を政策の中心課題に掲げるとき、その意味する「現状維持」の内容は明白であり、次の3点を意味していると考えられます。

 (1)中国の主張に反し、台湾は中国の統治下にはない、というのが現状であり、この点で台湾は香港とは明確に異なる。

 (2)台湾においては、過去二十数年間において自由、民主、人権という基本的価値が定着したのに対し、中国大陸は依然として一党独裁下にあり、中台間の政治体制の違いという現状を変えることは出来ない。

 (3)米国も日本も、台湾海峡の平和と安定については「現状を変更しようとする如何なる一方的な試みをも支持しない」という立場を取っていることを考慮する必要がある。

 他方、国民党側では、馬英九政権は「現状維持」というスローガンを前面に打ち出すことなく、「92年コンセンサス(「一つの中国、各自解釈」)」のスローガンを使っており、「一つの中国」は「中華民国」を意味するとの立場を取っています。これは、あくまでも「一つの中国」を標榜する中国との同床異夢です。洪秀柱は元来「一つの中国、同一解釈」との立場を表明し、馬政権より中国に近い立場をとっていましたが、最近、馬政権と同一の立場に軌道修正しました。

 中台間のレトリックをめぐる対立はこれからも続くでしょう。しかし、台湾の指導者は、与野党を問わず、「台湾関係法」をもつ米国の支持を得ようとすれば、事実上の「現状維持」政策をとる以外、他に方法がないことは自明のことです。

 中国としては、民進党への猜疑心を捨てることはありえず、今後とも民進党が「独立」の方向に向かうことを強く牽制し続けるでしょう。しかし、民進党が「現状維持」政策を掲げる以上、中国としてもこれに強く反対することは容易ではないと思われます。

 なお、7月に日本を訪問した李登輝元総統は、総統時代の90年代初頭に、中国の民主化を大前提として中台間で「統一綱領」に署名したことにつき、空想の産物であったとして、「中国は中国、台湾は台湾であり、その前提で付き合う以外ない」と発言しています。

  
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