無視できない「中国との歴史」
やはり、韓国が中国との歴史に抱く特別な思いを軽く見ることはできないのだろう。
韓国の通信社・聯合ニュースは訪中最終日の4日、「薩水大捷から最近の蜜月まで」という記事を配信した。中国を統一した隋が建国直後の612年に高句麗を攻撃した「薩水大捷」と呼ばれる戦争から説き起こし、13世紀の元による高麗攻撃と17世紀の清による朝鮮攻撃を紹介。日本の植民地支配下では「抗日」で協力したものの、朝鮮戦争に中国軍が参戦したことで中韓は「完全に背を向けることになった」。そして、冷戦終結を受けて1992年に国交を樹立することになり、その後「両国関係は急速に進展」し、「最近になって韓中の関係はさらに密着するようになった」という内容だった。
記事の小見出しには「中国が統一したり、強盛になる度に朝鮮半島は受難を経験した」とある。韓国ではよく聞く歴史観だ。近代以降は日本やロシアの思惑も朝鮮半島に大きな影響を与えるファクターになってきたが、歴史的に見れば圧倒的に中国の動向の影響が大きかった。だから、中国との関係には注意深くならざるをえない。
北朝鮮や経済といった実利や朴大統領と習主席が親しいからというような要素だけでは説明しきれない韓国の行動の背景には、こうした歴史観がありそうだ。大陸との間に海をはさむ日本では理解が難しいかもしれないが、日本と韓国は置かれた状況が違うのである。
中国と日米の間で「難しい戦略的決断」
韓国外務省は9月10日に国会外交統一委員会に提出した業務報告で、朴大統領の行事出席について「難しい判断による戦略的決断」だったと説明し、「一部にあった憂慮を理解と共感に転換した」と評価。さらに「行事前後に行った米国との緊密な協議を通じて、中国傾斜という憂慮を払拭した」と主張した。
「米国との緊密な協議」には、尹炳世外相が8月31日に米アンカレジでケリー国務長官と行った会談が含まれるとみられる。尹外相は、米国主催で北極圏の保護と開発について話しあう閣僚級会議にアジアの外相として唯一参加した。聯合ニュースによると、朴大統領の訪中について米国に説明したとみられる外相会談で、尹外相はケリー長官に松の苗木を贈ると伝えた。常緑樹で冬でも落葉しない松は「常に裏切らない、変わらない信義を意味する」(韓国紙記者)という。聯合ニュースは、「韓米同盟が堅固なものであることを改めて強調するジェスチャー」と伝えた。
中国による厚遇ぶりを大々的に報じ、訪中の成果を高く評価する韓国メディアだが、それでも、日米との関係悪化を心配する声は強い。
保守系の朝鮮日報はパレード翌日の4日の社説で、「朴大統領の戦勝行事出席が韓中関係を新しいレベルに発展させるだろうが、同時に韓米同盟をはじめとする、この国の外交のさまざまな場所に少なくない雲と、負担を負わせたという点を決して看過してはならない」と警告。さらに9日の社説で、「今回の韓中首脳会談の結果を多くの国民が評価しているのは事実だ」としながらも、「伝統的な友邦である米国と日本との関係を心配する意見が少なくないことも否定できない現実だ」と指摘した。
同じく保守系の中央日報は式典翌日の4日、「韓国の外交空間を拡大した朴大統領の軍事パレード参観」と題した社説で、出席を「勇気ある選択だ」と評価したものの、一方では「ワシントンと東京では韓国の中国傾斜の可能性に対する憂慮が高まっている」と懸念を示した。
一方、進歩派のハンギョレ新聞は4日の社説で「中国の平和に対する意思を疑う国が多い」と警戒心を示しつつ、朴大統領の出席については「(米中間での)バランス外交で我が国の国際的発言権を高めたといえる」と評価した。