2024年4月27日(土)

対談

2015年9月25日

久松 ところが、長老たちがすぐ調子に乗るんだって(笑)。「じゃあ酒米を作ろう!」となった。本末転倒なんだよね。

木下 もともとあったものを捨てて、わざわざ激しいマーケットに出ようとする。

久松 そっちに行ったら絶対に勝てない。

木下 そんな失敗をやってきた人たちが、全国に山ほどいらっしゃるわけで(笑)。

久松 ほうっとおくと危ないから、その友だちが無理やりラベルに「あきたこまち使用」と入れさせたらしい。あの年代は懲りないんだよね。

木下 時代認識のギャップがありますよね。まちなかでも、不動産オーナーの「儲かる」はすごくハードルが高いんですよ。土地の値段が暴騰した時代の感覚が抜けない。口では「もうそういう時代じゃないから」とは言うんだけど、地価上昇、つまりキャピタルゲインと、その物件からの賃料、つまりインカムゲインが同時に上がることが、彼らが無意識で設定した基準の「儲かる」なんですよね。それくらい黒字にならないと、儲かる実感がなかったりするみたいです。

久松 すごいね。双子の黒字だ(笑)。

木下 僕らからすると、人も減っている地方都市で、キャピタルゲインは短期的に上げ下げがあるとしても、中長期での上昇は無理なんだと割り切るしかない。だから地価が下がる可能性は念頭に置きつつ、施設をリノベーションして、良いテナントに入ってもらうための営業をかける。景気の良い時代に作られたまま残っている良質な施設もあるから、資産はあるんですよね。それがしっかり儲けてインカムゲインを出してくれれば全然いいじゃないですか、と説得するんです。

 さらに人気が出てくれば、月坪などの貸出単価は引き上げていけるので、実質的には地価が上がるのと同じようなことが実現できたりするんですよね。しかも空き物件のままでは取引価格の低かった不動産も、満室御礼になれば売却する際の値段も格段に上がる。従来の土地の評価では下がるけど、実質的には不動産価値を上げられる可能性があるわけです。

 だけど、それは全て家賃収入の上昇によることなんです。このあたり、黙っていても地価が上がっていた時代の人には、なかなか伝わりにくいんですよね。昔は地価が上がり、それを担保に銀行から借金してビルを大きくしたら、大きくした分だけテナントが入る、というスパイラルがありました。今は逆の局面なんですよね。なんで昔はそうだったのかが明確にわからないと、今なぜうまく行かないかもよくわからなかったりするんです。

久松 まあ、貸す側の銀行もそんな説明をしなかったんでしょうね。

木下 そうですね。まあ貸す側もそこまで考えてなくて、地価が下がれば貸し渋り、貸し剥がしをやっていましたから(笑)。借りる側も貸す側も、双方が時代に乗っていただけともいえます。だから悪くなった時になかなか、自分たちでは解決策が出せなくて、「世の中が悪い」みたいな話になってしまう。
久松 本当にもう、その無意識との戦いだよね。市場の縮小を嘆くよりも、バブル崩壊までの一時期だけが異常だったということを認識しなければいけないのに、全然されていないですよね。

木下 そうなんですよね。それが戦後の一時期だけに通用した常識だったということに、たとえ頭ではわかっていたとしても、気持ちと体の整理がついていないんですね。

久松 成功体験から抜け出すことはそんなに簡単なことではないんでしょうね。よく言われる「人は変われる」というのは性善説で、性善説の視線で上の世代を見ることそのものが、僕らにとってはリスクなんだと思いますね。

木下斉(きのした・ひとし)
1982年生まれ。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、内閣官房地域活性化伝道師、熊本城東マネジメント株式会社代表取締役、一 般社団法人公民連携事業機構理事。高校時代に全国商店街の共同出資会社である商店街ネットワークを設立、社長に就任し、地域活性化に繋がる各種事業開発、 関連省庁・企業と連携した各種研究事業を立ち上げる。以降、地方都市中心部における地区経営プログラムを全国展開させる。2009年に一般社団法人エリ ア・イノベーション・アライアンス設立。著書に『まちづくりの経営力養成講座』(学陽書房)、『まちづくりデッドライン』(共著、日経BP社)、新著『稼ぐまちが地方を変える―誰も言わなかった10の鉄則』 (NHK出版新書)。

久松達央(ひさまつ・たつおう)
(株)久松農園 代表取締役。1970年茨城県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人(株)入社。1998年農業研修を経て、独立就農。現在は7名のスタッフと共に年 間50品目以上の旬の有機野菜を栽培し、契約消費者と都内の飲食店に直接販売。SNSの活用や、栽培管理にクラウドを採り入れる様子は最新刊の『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)に詳しい。自治体や小売店と連携し、補助金に頼らないで生き残れる小規模独立型の農業者の育成に力を入れている。他の著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)がある。

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■コラム(執筆:原田 泰)

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