2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2015年10月4日

 経済記者を長くやってきたからでもあるが、品質の悪い商品やサービスに信じられないような高い値段がついていたり、逆にすばらしい商品やサービス内容でありながら、良心的な価格がついていたりするなどの例は数多く見てきた。今の時代、モノの値段などあってないようなものだという印象が強い中で、いまだに「定価」を決めて商売している業界が残っていることを本書では紹介している。新鮮な驚きを感じる向きも多いだろう。

死生観をめぐる損得勘定

 本書を読み進めると、何をもって得と見るか、あるいは、何をもって損とするかは、結局のところ個人の価値観や置かれた立場、状況に左右されるのではないか、という考えに至った。大げさにいえば個々の人生観みたいなものが反映されるのではないかと思う。これは表面的な数字で表される部分だけではない、もっと深い部分での判断なり見極めが大きく左右するのではないかという気がしてならない。損することが果たして悪いことなのか、あるいは得することが良いことばかりなのか。そうしたことも含めていろいろと考えさせられる。

 後段の最終章に恋愛や結婚、死生観をめぐる話が紹介されている。こうしたことに損得を考えるべきではないという主張があることは理解しつつも、損得勘定という観点から見てみると、紹介されている様々なエピソードは非常におもしろい。

 自分の人生観に照らしつつ、自分が関わっている様々な経済活動についての損得をどう考えるのか、一度立ち止まって考える機会を与えてくれる力作だ。だが、考えれば考えるほどわからなくなってくるのは私だけだろうか。実は読むと悩ましい本でもある。

  
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