オバマ米政権はこのほど、過激派組織「イスラム国」(IS)の首都であるシリア北部ラッカの補給や人員・物資の移動を遮断し、同市を孤立化させる作戦にゴーサインを出した。しかしロシアはシリアでの反体制派への空爆を続け、トルコの領空を侵犯するなど米欧に挑戦するかのように「やりたい放題」(ベイルート筋)だが、米国の新戦略の成否もロシアの出方にかかっている。
クルド・アラブ連合軍
この米国の新たな戦略「ラッカ孤立化作戦」はオバマ政権のシリア政策の柱だった「対ISシリア人部隊」の創設計画が最近破綻したのを受け、急きょ実施に移されることになった。米紙などによると、オバマ大統領は先週、作戦の実施に向けて重要な2つの方針を承認した。
1つは、大統領が国防総省に対して初めて、シリアの反体制派勢力に武器、弾薬の直接供与を命じたこと、もう1つはトルコのインジルリク空軍基地からのISに対する空爆を強化することである。米国はこれまで、中央情報局(CIA)の秘密作戦として、反体制派を訓練し、穏健勢力に武器を供与してきたが、国防総省は反体制派への武器支援を直接行ってきてはいなかった。
作戦は数週間以内に開始される見通し。狙いはラッカに通じる道路や一帯を封鎖して、同市を外部から遮断して孤立化させ、組織の弱体化を図ることにある。ラッカはISの指導部や戦闘員の中心的な拠点で、これまでは占領中のイラク第2の都市モスルやトルコとの人や物資の往来がほぼ自由にできていた。特にモスルとは、定期バスも運行するなどISの最も重要なルートだった。
地上での戦闘を担うのは、米国がシリアで最も信頼を置くクルド人武装勢力の「人民防衛隊」(YPG)とアラブ人反体制派の連合軍だ。YPGの戦闘員は約2万5000人で、現在、北方からラッカまで数十キロの地点にまで迫っている。この作戦に伴って、YPGはラッカを大外から包囲し、幹線道路を封鎖。5000人規模のアラブ人反体制派がさらにラッカに迫るというシナリオだ。
しかしISはラッカが首都であるだけに最大の防衛網を敷き、周囲に地雷や仕掛け爆弾を張り巡らして死守する構えだ。このため、市への無理な突入はいたずらに損失を増やしかねず、持久戦でラッカを締め上げる方針だ。とりわけラッカには約40万人の住民がIS支配下で居住しており、ISは米軍の攻撃の盾として住民を人質にしているため、市内への空爆は事実上できない。