ロシアとの衝突のリスク
しかしこの作戦は連日空爆を実施しているロシアとの協議が不可欠だ。なぜならシリア西部を中心にアサド政権に敵対する反体制派を攻撃しているロシア軍機がラッカに迫る反体制派を空爆するリスクも大きいからだ。つまりシリアでやりたい放題のロシアとうまく協調することができなければ、作戦の成功はおぼつかないということだ。
ロシア軍機はこの3、4日の両日、トルコの領空を侵犯、トルコ軍機が緊急発進するなど緊張が高まっている。ロシア側は悪天候のためなどと釈明しているが、米欧はロシアの領空侵犯が意図的で、北大西洋条約機構(NATO)軍の反応などを試すため、と非難している。
しかも、ロシアの義勇兵がシリアで戦闘に参加する可能性が急浮上、ロシア大統領報道官も義勇兵が国家の軍ではないとして容認する考えを示唆、米欧の懸念は高まる一方だ。ロシアはウクライナ東部で義勇兵を装って正規軍を投入しており、既に義勇兵がシリア入りしている恐れさえある。
ロシア義勇兵が参戦すれば、ISばかりではなく、米欧が支援する反体制派と交戦することになるのは必至で、内戦が激化して一段と収拾がつかなくなってしまうだろう。その上、ロシアがシリアだけではなく、今度はイラクでも空爆を実施する可能性も出てきた。
イラクのシーア派政権はロシアのシリア空爆を称賛する一方、米主導の有志連合による空爆が奏功していないと苛立ちを深めており、ロシアに対して近く、イラクでも空爆に参加するよう要請するかもしれない。その場合、米国はイラク政策を根本から見直さざるを得ず、重大な岐路に立たされることになる。
こうして米ロの確執がシリアやイラクを舞台に高まる中で、ISは今でも1カ月1000人の外国人を集めるなど勢力を維持、最近もシリア中部の世界遺産パルミラで、遺跡の象徴的な建造物の1つである「凱旋門」を破壊した。米ロが突っ張り合いを続けるかぎり、ほくそ笑むのはこうした暴挙を繰り返すISだ。このままでは、米国の「ラッカ孤立化作戦」の成功もおぼつかない。
「イスラム国」の正体
なぜ、空爆が効かないのか
著者:池内 恵/髙岡 豊/マイケル・シン
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