米国の無人機を低コストに無力化する
米軍が世界の戦場で実施しているような大規模な無人偵察機の運用には、グローバルな通信ネットワークの確立など多大のコストを要するが、ロシアの戦略は、これをより低コストに無効化する「非対称」型戦略と言えよう。ロシアは米軍の世界的な軍事活動を支えるGPS衛星測位システムの妨害手段にも注力していると言われ、米軍もこれに対抗してGPSに依存しない測位システムの開発を進めているほか、米海軍大学では最近、六分儀による位置測定を15年振りにカリキュラムに含めたことが報じられている。
これまでは通信インフラの安全性を前提として組み立てられてきた米国の軍事戦略が再考を余儀なくされる可能性をこの演習は示していると言えよう。もっとも、ロシア軍自身も最近では無人機を大々的に活用するようになってきており、ロシア軍の「非対称」戦略は諸刃の剣という側面もある。
第二に、サイバー攻撃が通常の軍事作戦と一体化する形でロシア軍の演習に組み込まれている点である。ロシア軍は従来から電子戦総局を中心にサイバー戦能力の拡充に努め、2011年には国防省が『サイバー戦概念』と呼ばれる将来のサイバー戦に関する文書を公表している。この文書では、サイバー戦を従来の軍事作戦の延長線上に捉え、将来的に通常戦とサイバー戦が一体となった戦場空間の出現を予見しているが、すでにこうしたビジョンが演習に取り入れられていることは興味深い。
従来、ロシアが実施したサイバー攻撃としては、大量の「サイバー民兵」を動員して政府機関にDDoS攻撃を仕掛けた事例が複数知られているが、今後は銃弾の飛び交う戦場でもサイバー攻撃が想定される時代になっていることをこの演習は示唆している。当然、専守防衛の概念を持たないロシアは自国が敵野戦軍に対して攻勢的なサイバー戦を行うことも想定してよう。
また、この演習の後に実施されたロシア軍の中央軍管区秋季大演習「ツェントル2015」では、「アンドロメダ-D」自動指揮通信システムが初めて大規模に使用されたほか、記事中で触れられている「ジーチェリ」電子妨害システムなど150基が投入されたという。詳しくは明らかになっていないが、こうした大規模演習での電子やサイバーの世界で目には見えない激しい仮想戦闘が繰り広げられたに違いない。
今後はこうした面でもロシアの軍事力の動向に注目すべき時代が来ているようだ。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。