製作総指揮には、岡野進一郎氏が携わった。岡野氏は、85年にNHK朝の連続テレビ小説『いちばん太鼓』で主演デビューした俳優で、現在は映画プロデューサーとして活躍。この作品ができたきっかけについて、岡野氏はこう話す。「ロス・コウダ氏と結婚した義姉、亡くなったニットータイヤの社長・木畑氏、共同プロデューサーの井出氏、国府田オーガニック米に魅せられた妻(ロス・コウダ氏と結婚した義姉の妹)、ニットータイヤの社員、得能氏。彼らとの不思議な縁によるものだ」。
「普段から米の炊き方を研究する妻が、姉の嫁ぎ先である国府田オーガニック玄米を口にした途端、すっかり虜になり米の販促活動を開始した」。その後、岡野氏が夫婦でロサンゼルスのファーマーズマーケット(青空市場)で、国府田オーガニック米の販促活動を行なっていた時、得能愛氏が、岡野氏を映画プロデューサーとは知らずに、「国府田敬三郎の映画製作に協力してほしい」と訪ねてきた。
得能氏は、ニットータイヤの社員で、「ヒーローズ」という日系偉人の歴史を次世代に残すプロジェクトに関わっていたのだ。そこからニットータイヤがスポンサーになり、製作が開始されたというわけだ。
監督は、第79回アカデミー賞の短編ライブアクション部門で、最終10作品に選ばれた映画『千代のお迎え』(英語タイトル:CHIYO)の製作者、馬場政宣氏。
「ドキュメンタリーは撮影したことがなかったので、今回の製作の話が来たときには躊躇した」と馬場氏は振り返る。「しかし、ライス・キングの偉業や、その人物による家業を孫が引き継ぎ、現在もそれが存続しているという功績は、伝えなければという使命に駆られた」。
本当につらい時にこそ、その人の真価がわかる
撮影中は、どのようなことに苦労したのだろうか。「空からの種まきは、風が少しでもあるとできない。このため、そのシーンの撮影ができるかどうかは、当日でなければわからなかった」。しかも、カメラマンのスケジュールがおさえられたのは、その日だけ。「まさに賭けだった」。しかし、神は馬場氏の味方だった。空から広大な農場に種がまかれる美しい光景が、映像が映し出された。
この作品を通じて伝えたいことは、「忍耐をもって、決してあきらめない」という精神だ。国府田氏や日系人が収容されたコロラド州のアマハ収容所では、誰かが騒ぎを起こしたり、無理やり出て行こうとする人はひとりもいなかった。むしろ、日系人の人たちは、威厳と希望を持って生活をしていたという。「本当につらい時、どのように過ごすかによって、その人の真価がわかる」と馬場氏。私たちは、この日系人の人たちに、大きな敬意を払わずにはいられないだろう。
もちろん、すべての人たちに観賞してほしい映画だ。「特に、若い人たちに観てもらいたい。何かをこれからやろうとしている人や、やろうとすることを見つける過程にある人、生きるということでもいい。この作品は、そのような人たちに伝わりやすい内容だと思う 」。
今後も、国府田氏のように人のために尽くして、すばらしい功績を残しながら、それを公言しない人の声になり、世に伝えていく作品作りをしたいと馬場氏は話す。これからも、このように人々に活力と英気を与えてくれる作品が、馬場氏を通して残されていくに違いない。
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