2024年4月26日(金)

WEDGE REPORT

2015年12月29日

スンニ派の取り込み

 もう1つ、ラマディの奪還で重要な点は、イラク政府軍とともに作戦に参加したスンニ派部族の存在だ。ラマディはスンニ派の居住地域で、同じスンニ派のISが占領の際、その「宗派性」を利用した。しかしスンニ派の部族勢力がISとの戦闘に加わったことで、イラク人が宗派を乗り越えてIS掃討に結束したことを印象付ける形になった。

 イラクはフセイン前政権時代、少数派スンニ派による多数派シーア派支配が続いていた。しかし米軍の侵攻で同政権が崩壊した後はシーア派が政権を掌握、スンニ派が抑圧される側となり、対立が先鋭化していた。ティクリートの奪還に際しては、戦闘に加わったシーア派の民兵が市の解放後にスンニ派住民を虐待して宗派対立を激化させた。

 このため米国はラマディの奪還にシーア派民兵が参戦しないようイラク政府に圧力を掛けると同時に、この作戦にスンニ派の部族勢力が加わるよう裏工作を強化してきた。オバマ政権は今回、スンニ派の取り込みを成功させたことを大きな成果として評価している。

 こうした中、ISの指導者アブバクル・バグダディは12月26日、5月以来となる音声声明を発表、ISの劣勢を認めた上で「有志連合はわれわれを恐れさせ、決意を鈍らせることはできない」として、世界のイスラム教徒に戦いへの参加を呼び掛けた。

 しかし、バグダディのこの強がりを一撃する情報が駆け巡っている。バグダディの信頼も厚いチェチェン人のIS軍司令官オマル・シシャニが米特殊部隊に拘束された、というのだ。米民間情報機関のISウオッチャーがツイッターで明らかにしたもので、今のところその真偽は確認されていない。

 シシャニはISの戦闘部隊の中で最強のチェチェン軍団を率いているとされ、もし拘束されたことが事実なら、ISにとってはラマディ陥落と同じくらい大きな打撃となるだろう。

▼関連する電子書籍

「イスラム国」の正体
なぜ、空爆が効かないのか

著者:池内 恵/髙岡 豊/マイケル・シン

▼ご購入はこちら
Kindleストア
iBooks
楽天kobo
Kinoppy(紀伊國屋書店)
BookLive!
 

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る