王家の内紛も関係か
湾岸諸国のシーア派反体制派の象徴的な存在であるニムル師を処刑すれば、イランとの関係が険悪化し、国連の仲介で25日からジュネーブで始まる予定のシリア和平協議も破綻しかねないことはサウジも十分予想できたはず。にもかかわらず処刑を断行して今日の“中東分断”を招いたのは、イランのシーア派革命に対する恐怖感がサウジの判断を誤らせたからだろう。
今回の処刑については「サウジに対する人権の尊重を再確認したい」(米国務省声明)と米国ばかりか、欧州連合(EU)や国連からも批判が強い。サウジは内政干渉と反発を強め、“子分格”のバーレーンやUAEなどを総動員して処刑を正当化しようとしているが、追い込まれた感があるのは否めない。
イランに対する恐怖感とともにサウジの判断を誤らせた大きな要因は対米不信である。オバマ政権は中東地域からの米軍撤退をしゃにむに進め、アジア重視戦略を打ち出して中東への関与を薄めつつある。「サウジからすれば、米国が中東から逃げ出し、自分たちが見捨てられつつあるとの思いが強い」(ベイルート筋)。
イランの核合意で米国がイランと急接近したのも米国に対する不信感を増大させることになった。「米国はもう頼みにならない。自分たちで守るしかない」(同)という感情がイエメンへの軍事介入に踏み切らせ、そしてニムル師の処刑によってシーア派やイランに対して断固としたメッセージを示そうとしたようだ。
サウジのこうした独立独歩の動きと強硬路線は1月のサルマン新国王の誕生の結果であり、王室内部の内紛とも密接に絡んでいると見られている。サルマン国王はすでに80歳と高齢で、病弱だ。しかし新体制発足後、イエメンへの軍事介入に象徴されるような強硬方針を打ち出し、イランへの敵意をむき出しにしている。
国王の決定には、息子で副皇太子のムハンマド国防相(30)が深く関与し、イエメン軍事介入を推進したといわれている。しかしこれに対して皇太子のムハンマド内相が批判的で、両者の間で次期国王をめぐる熾烈な権力闘争が行われていると伝えられている。
この激化する権力闘争を背景にニムル師処刑の決定が行われことになった。サウジとイランとの対立には、サウジ王室の内紛が深刻な影を落としていることを見落としてはならない。
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