チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年1月18日

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西本紫乃 (にしもと・しの)

北海道大学大学院公共政策学連携研究部付属公共政策学研究センター研究員

1972年広島県生まれ、広島大学大学院博士後期課程単位満了退学、元外務省専門調査員(在中国日本国大使館)。著書『モノ言う中国人』(集英社新書、2011年)。

 2016年はいよいよAIIB始動したり、秋には国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の通貨バスケットに人民元が採択される見通しだ。11月には浙江省杭州でG20サミットも開催される。2015年に引き続き、中国の国際社会における存在感はますます大きくなっていくことが予想される。国民の愛国心をくすぐる中国の大国ぶりを手離しで歓迎する庶民も少なくないだろうが、足元の自国の経済がぐらつくようなことがあっては、資産を持つ比較的豊かな層の人たちからは「先に国民生活を守れ」との民意の反発も起こり得る。習近平を神格化するような後進的な世論と浦志強弁護士の裁判の行方に注目す進歩的な世論、中国政府はそのどちらもうまく誘導するように民意をコントロールしなければならない。

 また今年は台湾、米国で国のリーダーを選ぶ国民の直接選挙が実施されるが、中国でも関心が高いだけに進歩的な世論の側から「なぜ同様のことが中国ではできないのか」というような意見が起こり、それが後進的な世論に拡散して過激化するようなことが起こらないよう、当局は最大の注意を払わなければならない。

 多様化、複雑化する社会を分権化とは逆の方向、すなわちこれまで以上に権力による統制を強めて管理しようとすることで、社会管理の難易度がますます上がっているのだ。

日中関係の展望

 習近平政権は大国関係を外交方針の主軸におき、日中関係は米中関係の従属変数としてとらえていた。対日方針は歴史認識問題を中心に「怒りの外交」と称される安倍政権に対する敵対心をむき出しにした政治宣伝を行ってきた。

 しかし、政治の世界では2014年11月のAPEC以降、国内の政治宣伝的には2015年9月の大閲兵式以降、日本に対する厳しい姿勢も徐々に緩和してきている。2016年は今のところ日中関係はこれまでの雨模様から次第に晴れ間も見え始めるといったところではないだろうか。

 2016年は日中関係についても中国国内の民意の動向は要注目だ。昨年は日本で「爆買い」が流行語に選ばれるほど、来日中国人観光客の増加が大きな社会現象になった。2014年241万人だった日本を訪れる中国人は、2015年は倍増して500万人を超えた。これまで中国政府のプロパガンダによって「日本は軍国主義だ」、「日本人は冷酷で残虐だ」という極度に歪められたイメージを持っていた多くの中国人が、「日本は清潔で快適だ」、「日本人は上品でやさしい」という真逆のイメージを持つようになっている。日本についてのプラスの噂がSNSの口コミで拡散し、すでに庶民のレベルまで「日本はいい国だ」という評判が広まっている。

 来日観光客の増加によって中国ではすでに国内の隅々までに、現実の日本は中国政府が宣伝するような国とは違うという理解が広がっている。中国政府にとって日本に対してネガティブな宣伝戦略をとることは却って民意の不信を生じさせることになる。中国政府にとって対日外交で歴史カードを使い続けたり、日本の軍事的脅威を事実以上に誇張して伝えることはもはや得策ではない。

 日中関係についても2016年は中国の民意が要注目のファクターになっていくだろう。


  
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