そもそも国はなぜ民間企業とはいい難い特定のメーカーにワクチン製造を寡占させているのか。厚労省内では、ワクチンは国のセキュリティに関わるものであるから国産を原則とすべきという考えが以前より強かった。2007年3月に発表した厚労省の「ワクチン産業ビジョン」でも、ワクチンは国内で開発・安定供給することが不可欠であり、そのためには国が一定の関与を行う必要があるとしている。
しかし、非営利法人に承認前検査と国家検定を課して政府の監督下に置き、そこで独占的に作らせ、国内外の競争から保護することは、本当にワクチンの安全性の確保と安定供給の実現につながったのだろうか。こうした一見安全で安定的な体制こそが、化血研を約40年にもわたる隠ぺい行為を問題としない組織にさせたのではないか。
日本の官僚的な許認可行政を批判する声や、審査・管理体制の甘さを批判する声も上がっている。業界関係者によれば「日本の認可や審査は、メリハリなく大事ことも瑣末なことも並列にリスト化してしまうため、かえって本質的なリスクが発見できなくなる」。また、これまで国が医薬品医療機器総合機構(PMDA)に委託して実施してきた審査はすべて事前通告をしてから行う形であり、ここへきてようやく抜き打ち検査の実施を検討しているのだという。
「カスを集めて何か変わるのか」
となると、問題は化血研独自のものということもなさそうだ。業界内には「同じ問題が他の非営利法人にもあるに違いない」と囁く声もある。80年代までは、世界をリードすると言われていた日本のワクチン。これを機にまずは化血研をはじめとする財団を解体させることで国内市場に競争原理を取り戻し、さらには外資との提携や競争を通じてグローバルな市場原理にさらすことで息を吹き返すのだろうか。
塩崎大臣は、14日の第1回タスクフォースの冒頭挨拶において「化血研の名称のもとでの製造販売はなくなる」と8日よりも踏み込んだ表現をした上で、「わが国のワクチン血液製剤は規制を中心にいわゆる護送船団方式で守られて国際的な商業化から取り残されているといわれてもいる。それが結果的に産業競争力の停滞を招いて日本国民への質の高い安全な薬剤を安定供給するという本来の目的を損なうことにつながりかねない」として、日本のワクチン血液製剤産業における「ビジョンと戦略の欠如」を自覚する発言をした。
抜本的な産業構造の改革を望む姿勢を見せる大臣に対し、官僚サイドは、供給リスクを理由に解体や抜本的な再編に対して慎重なトーンで記者に説明するなど腰が引けている様子だが、大臣発言は具体策に結実するだろうか。
ちなみに化血研の血液製剤部門を引き取ると噂されている前述のJBは、日本赤十字社の血漿分画事業部門と薬害エイズ問題を起こした旧・ミドリ十字をひとつのルーツとする田辺三菱製薬の子会社を統合させてつくった組織であり、「似たようなカスを集めて統合して何か変わるのか」(関係者)とする厳しい指摘もすでに上がっている。
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