家電口論

2016年1月27日

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多賀一晃 (たが・かずあき)

生活家電.com主宰

スマート家電グランプリ審査員。主催する『生活家電.com』を通じ、家電の新製品情報、使いこなし情報他を発信中。過去、某メーカーでAVメディアの商品企画を担当、オーディオ、光ディスクにも精通。また米・食味鑑定士の資格を有する。水、米、パン、珈琲、お茶の味に厳しい。

月に行った時計は、通りの時計屋で売られていた

高級感溢れるオメガ社の時計(iStock)

 同様なエピソードがあるのが、スイスの時計会社、オメガ社ですね。アポロ計画の時、どの時計を使うのかで悩み抜き、通りの時計屋で売っている時計を買い占めテスト。結果、そのまま使われ、月まで行ったのは余りにも有名な話です。

 が、その品質主義が災いして、スイスの時計業界は1970年後半壊滅的な様相を呈します。

 これを打破したプロジェクトが「スウォッチ」ですね。安価でデザイン豊富なスイス時計。これが下支えとなり、高級機械時計は生き残ったわけです。

ミーレの先進性

 先ほど、時計の話を持ち出しましたが、1973年世の中は大きく変わります。

 「オイルショック」。ここから、高くていいモノから、安くてそれなりにいいモノへと、ゆっくり変わりつつあったユーザーの意識が変わります。

 「安い」ものは正義。

 以降、家電は使い捨てられる時代となります。スイスの時計業界が辛酸を舐めたように、高級品が売れない時代にもなります。

 そうなると高級工業製品を作っていたメーカーは大変。ミーレも、そうかなぁと思い、聞いてみました。

 ところが、この時期、ミーレは業績を大幅に伸ばしているのです。それは、ミーレの先進性に答えがありました。

家事を考える

 1899年、撹拌式のクリーム分離機から身を起こしたミーレは、洗濯機、食器洗い機と扱う製品を拡げていきます。これは、「より良い生活のため、家事をサポートするため」です。

 そして1960年代後半、ついにキッチンへと辿り着きます。

 その時の研究を、ちょっと数字で教えて頂きました。これが、なかなか意味深いです。

 当時のドイツの総人口は、約5,800万人。そのドイツ人が、1日キッチンで過ごす(家事をする)時間が5,000万時間。それを最大で60% 削減できる、というのが研究結果だったそうです。

 結果、ミーレは「キッチン」を発売します。家電ではなく、キッチンをです。これはスゴい。メーカーは新分野は敬遠しがちです。キッチンは家電ではないですからね。

 家事を楽にという「目的」のために、キッチンを作るのは「手段」です。目的のためには手段を選ばずは、目的遂行のための鉄則ですが、いつの間にか手段が目的を縛っていることが多い。このブレがない所、天晴れと言うしかないです。

 タイミングも良かったですね。本格的な女性の社会進出が始まった時期です。どうしても家事の時間は短くです。これと同時期に発売、普及したのがシステムキッチンです。

 ミーレ社に残っている数字を取り上げて、当時を見て見ましょう。

 1973年当時ミーレで販売されたシステムキッチンの約48%が、旧式型からの買い替えだそうです。毎年45万という新婚カップルの誕生、100万世帯が引っ越しというのも見逃せない数字です。

 女性も外で働き稼ぐというのが普通になりつつあった欧米で、毎日しなければならない炊事の時間を、60%とまでいかないにせよ、大幅に短縮できるということは、仕事と家庭を両立させる一番欲しい道具だったと思います。

 いずれにせよ、旧式のキッチンはどんどんシステムキッチンに取って変わられて行ったわけです。

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