2024年4月20日(土)

家電口論

2016年1月27日

システムキッチンがもたらしたビルトイン

1968年発売の、初めてのビルトイン対応型オーブン(H620)

 ミーレと言えば、「ビルトイン」デザインが当たり前ですが、1968年のオーブン、食洗機が一号機になります。これは、システムキッチンに合わせてデザインされました。

 システムキッチンの特長は3つあります。1つ目は、ミニマムであること。2つ目は、動線を考えた配列で機器を並べることができるので、能率的であること。3つ目は、規格、工業製品なので、それまでのキッチンに比べ、安いということです。

 ここで考えてみてください。日本の様に家電は置いておくスタイルだと、作業スペースが確保できません。自然乾燥が好きな日本では、家電は別棚にするとしても、食器かごを、システムキッチンの作業スペースにおいてあることが実に多い。これでは、「ミニマムスペースで最高の効率」は出せません。

 特に欧米では何をするにも、小麦粉からスタートですから、こねる、伸ばすという作業は必須でスペースが必要です。その昔、アパートメントなどでは、共有スペースでパンなどは作っていたと聞いたこともありますが、それだと時間的な自由度は確保できませんからね。

 もうお分かりですね。

 システムキッチンの性能をフルに発揮する家電は、ビルトイン型なのです。キューブ型の大きさが揃った家電は、並び替えが極めてし易い。自分の動線に合わせた配置、つまり自分がもっとも動きやすい配置が可能と言うことです。

初めてのビルトイン型食洗機(G50)

 ちなみにビルトイン家電の基本幅は60cm。手のサイズからできた長さの単位で言うと、2尺。尺貫法はメートル法に取って変わられましたが、実際にモノを作ったりするときは、人間のサイズを使った長さの方が収まりがいいです。

 そして家事を楽にするために、システムキッチンを発売。それに最も合うデザインがビルトインということです。

 システムキッチンを活かすビルトイン型家電が出て以降、欧米では卓上型からビルトイン型へのシフトが行われます。ミーレは、家事の負担軽減としてシステムキッチン、そしてそれに最も有効な家電としてビルトイン型の調理家電を提案。新しい世界を創出したわけです。

 最後にトリビアを。

 システムキッチンは和製英語。このスタイルのキッチンを欧米では、ビルトイン・キッチンと呼ぶそうです。

脱帽の作り

左)IHクッキングヒーター裏側。薄い上、放熱は2カ所(矢印) 右)IHクッキングヒーターは台の穴にはめ込むだけ

 で、このビルトイン型のキッチン家電ですが、実に作りがイイ。特に今の家電は電子制御ですから、熱に弱いのですが、キッチン家電は煮炊き用ですから発熱します。それでも外に出してある分には問題ないのですが、ビルトインですから、木枠に入っています。つまり熱が逃げにくいのです。

左)ビルトイン型オーブンの天面 右)コンセントにつなぐだけ

 ミーレのオーブンは徹底して熱を庫内から逃がさない仕様。このため見えない部分も非常にキレイなデザインです。庫内に熱が溜められるということは、温度上昇もはやいですし、保温性もイイ。省エネ型の家電でもあります。

 亡きスティーブ・ジョブスが、ミーレの家電を大変気に入っていたのは有名な話ですが、普段見えない部分がきれいに作られているのを見て思い出したのは、オールド・マッキントッシュ。

左)ビルトイン型オーブンの裏面 右)ビルトイン型オーブンの止め穴(矢印)

 当時のウィンドウズマシンの裏パネルなどは、いじると手が切れそうな雑な作りで、家電の「誰でも安全に」とは全く違うものでした。それに比べると、マッキントッシュの優美なこと。

 この作りの良さは、ミーレのビルトインは、ちゃんとした枠さえあれば、素人でも取り付け自由であることにも繋がります。例えば、位置を入れ替えるのも簡単。トライ&エラーで動線を探ることも可能です。

左)ビルトイン型オーブンの内部。ファンカバーを外したところ。シンプル 右)ヒーターは手前に引き下げるタイプ。手入れしやすい

 で、構造もシンプルかつタフ。中でも、扉の動きを左右するヒンジの頑丈さは特筆に値します。しかも手入れのことまでいろいろ考えてあり、手入れが滅茶簡単。自分の使うモノはしっかりメンテナンスをする。これは高耐久性品のセオリーです。いっぱい使ってやって、時々ケア。人間の身体と同じ事です。

 そうそう、写真はないのですが、このビルトイン家電、内側には品質チェック者の手書きサインがあるそうです。

 初期の一体型マッキントッシュ、すなわちMacintosh 128Kや512K、そしてMacintosh Plusには内部ケースに開発に関わった人たちのサインが刻印されています。相通ずるものがあります。また江戸の腕に覚えのある大工も、天井裏に自分の名前を書いていますからね。そういう意味では現代の匠の製品とも言えます。


新着記事

»もっと見る