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2009年11月9日

 そう聞くと、高見が50年にわたって子どもたちに愛され続けている理由がわかる気がする。高見と仕事をしたことのある人は、「やわなものはつくらない」という口癖を耳にするそうだ。子どもに受けそうな決めのポーズをテレビでやったらと、高見に提案した人は断固拒否された。「そんな子どもだましは好きじゃない。私の趣味やセンスを、真正面から伝えようと思ってやってきました」。それが、多くの人に愛されたテレビ番組であり、舞台であり、歌であったということだ。つまり、子どもに対して説明するとか嘘をつかないとかいうだけではなく、自分自身に嘘がないことが、その人が全力でボールを投げていることが伝わる前提なのだろう。

 高見が手抜きを嫌うのは、子ども時分に出会った大人のようになりたくないからだが、あわせて「子どもは賢くて可愛くてきれいなもの。大事にしたいですね。純粋だから、私がやったことにきちんと返してくれる。うれしいですよ」と言うように、子どもの純粋さが好きで、子どもに全力で接した時の反応を感じている自分が好きなのだろう。ここでも、子どもに真剣になる高見自身に、嘘がないことがわかる。

 「大人が自分のことばかり考えるから、心の貧しさでは最低の世の中になってしまいました。もう諦めようかと思うこともありますが、劇の中で一生懸命にメッセージを伝えれば、客席はわかってくださると思います。そこを出て何時間か経ったらどうなるかなとは思いますが、それでもかまわない。一瞬でも何かを感じていただければ」

 手抜きをせずに、自分が思うことを全力でぶつけてくる人がいる。ぶつけられた人は、そこから相手を好きになり、信じられると感じる。そうなってはじめてメッセージは手渡される。高見はいま、脚本、演出、作詞すべてを手がけた音楽劇で全国を回り始めた。50年間、全力投球を続けている75歳の舞台から、何かが伝わらないはずはない。(文中敬称略)

◆「WEDGE」2009年11月号

 

 
 

 

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