香港ならではのスタートアップの特徴
それでは、訪問期間中に出会った企業の中から、香港ならではのスタートアップのトレンドを紹介したい。まず、香港発で目だったのは、BtoB向けのコーポレートサービスのプラットフォームだ。「DragonLaw」は、法務サービスのプラットフォームで、特定のテンプレートを用意してくれる。たとえば、企業の投資契約をしたい時、簡単な投資契約のフォーマットがすぐに手に入り、その後で追加費用を払えばカスタマイズのコンサルティングを弁護士に頼むことができる、といったサービスだ。
「Lynk」は、サイトに加盟している様々なエキスパートと企業をつなぐプラットフォームだ。たとえばウェブアプリを創りたいといえば世界中から最適な人材を集めることができ、プロジェクトはウェブ上で行われる。これ以外にも、会計管理、人事システムや会議室管理の業務効率化を目的にしたソフトウェアなど、コーポレートをターゲットにしたスタートアップが多いのが印象的であった。
一方、一般のコンシューマー向けという意味では、富裕層向けのサービスが多かったのが香港らしい。(残念ながらウェブサイトがないが)ウーバーの飛行機版、つまり香港の富裕層が持つプライベートジェットを、空き時間に貸し出す、というビジネスモデルを展開している企業や、メイド・コンシェルジュ系のオンデマンド系サービス(アプリ一つですぐにハウスキーパーやクックをデリバリーしてくれるようなコンセプト)も流行っている印象だった。
また、個人的に面白いと思ったのは、教育系のスタートアップだ。「SnapAsk」は、学生がスマフォで宿題をとると、登録してある学生がチャットベースで教え、その対価にいくらか収入を得ることができる、というモデルである。香港はシンガポール並みに教育費をかけるらしく、子供の学力向上のためなら富裕層はためらわずに出費するということだ。学生は香港での生活費が高いため、少しでも稼ぎたいらしい。非常に香港らしくて面白いと感じた。
香港市場は、単体では決して大きくはない。私が出会って提案を受けた香港のスタートアップの中では、香港の次のマーケットとして、中国本土や日本ではなく、東南アジアを見ている人が多かったように思う。地理的に近い中国市場を目指すのでは? と私は考えていたが、誰もが言っていたことは、中国国内は全く隔離された別の世界なので、オペレーションをするのが難しい、ということだ。中国本土よりも、文化的にも近く、マーケットの成長期待もある東南アジアを攻めていきたいと考えている。今後数年、ASEANのスタートアップ戦線に、香港系企業が食い込む可能性は大きい。戦況はますます激しくなるばかりだ。
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