2024年11月22日(金)

ASEANスタートアップ最前線

2016年2月17日

イーロン・マスクが現れた!

 セントラル中心を歩いていると、テスラモーターズの車が走っているのを見かけることができる。本国アメリカやシンガポール、日本でも販売が苦戦しているのにもかかわらず、香港では昨年の発売以降、爆発的な人気だそうだ。私は、一晩で10台以上のテスラモーターズが走っているのを見かけた。1台1000万円前後はするはずである。なんと富裕層の多いことか。香港では東南アジアほどタクシーを使う必要性はなく、従ってウーバーも使う機会は少ないが、テスラモーターズのウーバードライバーも多いらしい。憧れのテスラモーターズに乗るなら、香港でウーバーをトライするのがお勧めだ。 

政府主催のイベントに出席するイーロン・マスク氏

 そんなわけで、政府主催のメインカンファレンスには、テスラモーターズ創業者のイーロン・マスク氏が現れた。私は後方から見ただけだったが……。私が想像していたよりも(縦にも横にも)大きく、謙虚な感じだった(この時のインタビュー動画はこちらをご覧いただきたい)。 

香港のスタートアップ・エコシステムは
シンガポールの周回遅れ

 よく、香港とシンガポールはアジアの中心地ということで比較をされるが、スタートアップのエコシステムという観点では、残念ながら、香港はシンガポールに大きく遅れていると言っても仕方がない、というのが現場からの感想だ。

 まず、圧倒的に政府の支援が少ない。シンガポールは、本連載の初回の記事でも書いたように、各省庁がそれぞれスタートアップ支援のプログラムを実施し、極めて盛んである。海外資本のスタートアップさえも、「シンガポールに有益である」と判断されれば、税制面でのメリット、補助金、もしくは投資を受けることができる道が拓かれている。一方で、香港は、政府系のインキュベーション施設の「CyberPort」を中心に幾つか存在するが、まだまだ政府の支援は不活発な状況だ。地元の起業家に聞くと、補助金もほとんどなければ、ワーキング施設やイベント・プログラムも他国と比べると少ないそうだ。

 次に、シード~シリーズA時期にフォーカスした、企業の立ち上げ段階を支援するインベスターが少ない。シンガポールでは、国土が狭いにも関わらず、アジア全域を投資対象とするシード・シリーズAのインベスターがごろごろいる。ひとたび会合を開催すれば、質の良いネットワーキングになる。一方で、香港はどうか。私も一生懸命色々な場所に繰り出したが、アーリーステージのインベスターには数人会うことができただけで、ほとんどはヘッジファンドやコーポレートの投資部門など、比較的レイターステージを対象にした人が多かった。

 現地の投資家の友人に聞いたところ、多くのVCは、そもそも香港に拠点を置いていたが、中国経済が成熟するにつれて、拠点を香港から上海や北京に移してしまった、ということである。その代わり、企業の立ち上げ時期に支援するのはファミリービジネスなどを持つ個人のエンジェル投資家、もしくはレイターステージに投資するプライベートエクイティがアーリーステージの企業に投資し、エコシステムのキーになっているということだ。

 結果として、香港発の起業家はまだまだ少ない。旅先で出会ったとある香港の起業家は、香港のスタートアップシーンが発達しない(起業家が少ない)理由として、2点教えてくれた。一つは、スタートアップを始めること自体、香港ではまだカッコイイと見なされていない。どちらかと言えばヘッジファンドとか外資系の企業で年収の高い企業に就き、テスラに乗ってiPhoneを使いこなすのがカッコイイと思われている、ということだ。もう一つの理由は、香港の生活コストが高すぎて、スタートアップのようなリスクの大きい環境に飛び込むことが難しい、ということだ。どちらもうなずける。

 私としては、一台1000万以上するテスラを買う余裕がエンジェルにあるなら、そのお金を意欲高いスタートアップにもっと投資しても良いのではないか……、そうすればもっともっと起業が盛り上がるのに…、なんて考えてしまった。


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