それもこれも、日本の農政の戦略のなさ、政治家の見識のなさ、国民の思慮の欠如によるところが大きい。日本中の駅前を元気にし、活性化することは、日本の社会と日本人の思考を健全なものにすることでもあるだろう。
白浜では適当なホテルを見つけることができなかたので、小平さんの知り合いのご厚意で、会社の保養所のようなところに安く泊めてもらう。食堂の広い窓の外には、夜の太平洋が広がっている。夕食は幻の魚クエを使った鍋など、紀州の自然の恵みを堪能させてもらった。食堂の隣はラウンジになっており、ここでもぼくたちは、宿にお断りして持ち込ませてもらったワインや日本酒を飲みながら、夜が更けるまで歓談をつづけた。
東大寺のお水取りからはじまった今回の旅、天理では山の辺の道を歩き、卑弥呼や邪馬台国について想像をふくらませ、伊勢では正しい参詣の仕方というやつを実践し、新宮では神倉神社から暮れなずむ太平洋を眺め、さらに那智大社にお参りして、紀州勝浦で親子丼を食べながら震災三周年を迎え、飛鳥・奈良の時代より先人に愛されてきた白浜で、いまこうして旅を振り返りながら、紀州田辺が生んだ偉人・南方熊楠にちなんだ「南方」を飲んでいる。
島国根性の悪いところ
「今回もいい旅でしたね」
「やっぱりお水取りからはじめたのが良かったんだよ。旅をとおして神のご加護を感じたもの」
「ぼくはメディアとの接触を断って暮しているのが、心と身体にいいような気がします。集団的自衛権やTPPのことなんか考えたくないなあ、せめて旅のあいだくらいは」
「こっちは商売柄、旅行中もニュースはこまめにチェックしているけどね。STAP細胞をめぐる小保方晴子へのバッシングが、すさまじいことになっているよ」
「嫌だなあ。大勢の男が寄ってたかって一人の女性をいじめるなんて、屍肉に群がるハイエナやハゲタカみたいじゃないですか。醜悪極まりないですよ」
「そうだね。島国根性っていうのかなあ、日本人の悪いところだな。成功した人間が落ち目になった途端に、それ見たことかって感じで徹底的に潰してしまう」
「きっと小保方さんが自殺するまでやめないんでしょうね」
「なんだか暗い話になってきたね」
「やめましょう。神様の話に戻りましょう」
「やっぱり日本ってさあ、八百万の神々に守られているんだよ。そのことを今回の旅では強く感じたね」
「同感です。もっと感謝しなくちゃいけないと思いました。お願いするばかりではだめだ」
「つまり謙虚に生きるってことだよね。思い上がってはいけない」
「その言葉をそっくり、安倍首相に進呈したいですね。つけ上がるな、増長するな。だいたいあの人は、神様の意味がわかっていないんだと思いますね。考えたことすらないんじゃないかな……いけない。また気分が悪くなってきた」
翌朝は、オーシャンビューの温泉に入ってから、美味しい朝食をいただき、宿から目と鼻の先にある三段壁を散策する。天気はますます良くなっている。空には雲一つなく、日差しは汗ばむほど暖かい。一面に広がる真っ青な太平洋。目がくらむような絶壁の下で、何人もの釣り人たちが竿を振っている。どうやって下りたのだろう。波にさらわれたりしないのだろうか。最高の季節の、最高の日和に行き合わせた幸運。小平さんではないが、神の御加護を感じる。