安保理常任理事国は、中国を除きすべてMTCRレジーム(ミサイル技術管理レジーム)に参加している。この場を通じて対イラン武器技術輸出の規制強化を図るべきだ。米国はMTCR違反に対しては国内法による制裁を発動すべきだ。
これらの措置はイラン核合意に整合するものであり米国は行動をためらうべきでない。イランによる新たな巡航ミサイルの入手やその改善を阻止するため、米国は核合意交渉で見せたと同じ位の危機感を示すべきだ。
出典:Jonathan Ruhe & Blake Fleisher,‘The Overlooked Iranian Missile Threat’(Wall Street Journal, February 21, 2016)
http://www.wsj.com/articles/the-overlooked-iranian-missile-threat-1456095967
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イスラエルの研究者がイランの核搭載可能な巡航ミサイルの脅威に警鐘を鳴らす記事です。イラン核合意にも反対してきたイスラエルとしては、次の問題として核兵器運搬ミサイルの発展を阻止したいというのは当然のことでしょう。筆者は、弾道ミサイルよりも巡航ミサイルが一層大きな脅威だとしています。
今後も核搭載可能なミサイル開発推進するイラン
昨年7月の安保理決議2231のミサイル関連規定は非常に限られたものになっています。イラン核合意は、核開発の問題に限定した合意でした。合意のための取引として、2006年来の安保理制裁は、ミサイル規制を含めすべて解除されることになりました。しかし、米国は武器禁輸と弾道ミサイル規制の解除には最後まで反対し、イランは最終的に譲歩しました。安保理決議2231付属書は、弱い文言ではありますが、向こう8年の間「イランは核搭載のための弾道ミサイル発射活動は行わないことが求められている」と規定するとともに、安保理はケース・バイ・ケースで核運搬システムや技術の移転を拒否できる旨を定めています。巡行ミサイル規制のための若干の取っ掛かりは残っています。
そもそもミサイルの規制については、当該国が同意する場合や安保理決議が規定する場合は別として、核不拡散と違って、特定国のミサイルの開発や保有自体を禁止することはなかなか困難です。しかし有志の国が特定国のミサイル開発を阻止するための措置をとることはできます。MTCR(大量破壊兵器の運搬手段であるミサイル及び関連汎用品・技術の輸出管理体制。87年に発足、日米英仏露など34か国が参加)がその例です。筆者は、このオプションを使えと言います。さらに、米国に対し、違反には一方的制裁を掛けることを求めています。中国はMTCRに参加していないので、ロシアを念頭に入れているのでしょう。
昨年10月と11月、イランは弾道ミサイル発射実験をしました。米議会の一部からは「安保理決議違反」だとして制裁解除の中止や一方的制裁を求める声が上がり、オバマ政権は、イラン核合意の実施の開始(1月16日)と当時進行中であった米イラン捕虜交換交渉への悪影響を避けるため、これらが済んだ後の18日に、イラン企業などに対する限定された一方的制裁措置を発表しました。
イランは、これからも核搭載可能なミサイルの開発を推進していくものと見られています。弾道ミサイル、巡航ミサイル、無人機など核運搬手段の問題については、今後も神経戦が続くものと思われます。その観点からロシア、中国の対イラン軍事輸出の動向に注意していく必要があります。なお、昨年11月末、ロシアはイランに最新鋭地対空ミサイルS300輸出の契約を結んでいます。
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