運命の一冊『ぶつかってぶつかって』に衝撃受ける
初瀬 小学校を卒業したあとは筑波大学付属盲学校の中学部から高等部へと進学されましたが、生徒は全員視覚障害者ですから孤独感はないですよね。それに先生たちは視覚障害者を教育するエキスパートですから、偉大な先輩たちの話も聞くこともあったでしょうし、自分の将来に希望が持てたり、勇気が湧いてくるような話も聞いたでしょうね。
大胡田 そうですね、いろいろありありますが点字を習ったことが大きいですね。先天性の視覚障害の友達に比べて読むスピードはぜんぜん遅いのですが、中学2年生の夏にまさに運命というべき本に出合いました。竹下義樹先生の『ぶつかってぶつかって』です。誰かに勧められたわけではないんです。
夏の課題図書で何を読もうかと点字図書の中から探しているときにこの本に手が止まりました。当時は僕自身が全盲になったばかりで、本当に毎日が壁にぶつかっていた頃ですから、まさに「ぶつかってぶつかって」だったのです。
初瀬 「こんな人生があるんだ!?」という衝撃でしょうか。タイトルだけで読もうと決めたのですか?
大胡田 そうです。中身はまったく知りませんでした。
“弁護士”という仕事との出会い
中学2年生の頃といえば、これから自分は何をしたら良いのかわからなくなっていた時期でもあるんです。思春期ですし、自分にできることはあまりないんだろうな、なんて考えていたところ、本を読んで目が見えなくても弁護士にはなれるんだ! と知ったことは大きかったですね。
当時は弁護士がどんな職業か知らなかったのですが、医師と弁護士は人のために仕事をしたり、人の役に立てる職業だと聞いていましたので、大切な仕事なんだというイメージがありました。ですから、そういった仕事に就ければ、無力感に苛まれている自分が、視覚障害というコンプレックスから解放されるんじゃないだろうかと考えたのです。
初瀬 その気持ちよくわかります。僕が見えなくなったときは、「すみません」とか「ごめんなさい」と言って周りの人に何かをお願いすることが辛かったです。自分が小さくなってしまうというか、自分というものを出せなくなってしまうというか……、きっと大胡田さんも同じような思いを持っていたのでしょうね。