初瀬 孤独が続きますね、毎日こつこつと、ひたすら司法試験に向けて……。辛い時期でしたね。旧司法試験(平成23年で終了)は何回受けられたのですか?
大胡田 旧司法試験は4回です。26歳のときに、このままではいけない。目先を変えないと合格できないだろうと思って、慶應大学のロースクール(法科大学院)を受験しました。ロースクールの勉強量がとんでもなく多くて大変でした。1時間の授業のために100ページくらい予習をするのですが、それで1教科ですからね。かなりの量ですよ。それをスキャナーで読めるようにして授業の前に全て読んでいきました。
当時は毎日午前4時に寝るような生活で、それでは授業中に眠くなってしまって悪循環でした(笑)。
初瀬 寝るのが4時では辛いですね、かといって予習をしなければ追いつけませんし、大変な時期を乗り越えていらっしゃるのですね。ところで司法試験は何歳のときに合格されたのですか?
大胡田 29歳で合格しました。新しい司法試験はとにかく量が多いんです。4日間の試験で、時間延長されて36時間30分の試験時間でした。4日間通して朝から晩まで試験をしている感覚です。量が多くて点字では読めない量です。とてもじゃないが、これではできないと思って法務省に交渉して、パソコンでの受験を認めてもらいました。
初瀬 それが前例になって今に続いているのですね。僕もパソコン受験ができるという情報を持っていたら、ロースクールに通っていたかもしれません。大胡田さんが合格したときは、僕があん摩、マッサージ師になりなさいと言われていた頃ですから、時期から見て誰かしら情報を持っていたはずなのに誰も教えてくれませんでした。残念です。
竹下義樹さんと会って弁護士への思い固める
初瀬 学生時代に竹下義樹先生にお会いしたとお聞きしたのですが。
大胡田 筑波大学付属盲学校の先生に竹下先生を紹介してもらいました。先生にお会いしたときの印象は、「人を活用して仕事をしている」ということです。見える人と上手く連携して仕事を進めれば、僕にも弁護士が務まると思いました。中学生のときに本を読んで、僕も弁護士になりたいと思っていたのですが、直接お会いして確信に近いものを感じました。思いを固めるには、直接仕事を見るしかないと思ったのです。
初瀬 目が悪くても自分にできないことを人にしてもらえばいいわけですから、稼げればできるということですよね。竹下先生にお会いしたことで確信に近い思いを持ったということですね、だからこそ27歳まで頑張れたんでしょうね。
大胡田 確かにそうかもしれません。ですが、弁護士資格を持っていても視覚障害者の就職は難しいですよ、一般の会社の就職と同じようにいろいろな事務所に履歴書を送って面接を受けるのですが、箸にも棒にも引っかからなくて……。
やっと渋谷シビック法律事務所が「依頼者のメリットにもなるだろうし、事務所のみんなが多様性を理解するうえでも良いことだ」ということで、5年ほどお世話になりました。
その後、竹下先生が東京で事務所を開設されたのでお世話になることになりました。そもそも僕は中学生の時に『ぶつかってぶつかって』を読んで、竹下先生に憧れて弁護士になっていますから、どうしても先生のもとで働きたいと言ってお世話になりました。