短期的なGDPの伸びは、経済の生産性の伸びのみならず、政府による信用の増大がもたらす追加的経済活動にも依存するので、予測は極めて難しい。しかし長期的にはGDPの伸びは、平均して生産性の向上率(それはGDPの増加率よりよほど低い)より大きくならない。
中国は信用創造能力が十分ある限り、債務を増大させることにより、長期的な潜在成長率を上回る経済活動を促進できるが、債務負担が増大すれば長期的経済成長率は低下し、信用の増大による経済活動の拡大はより効果が減る。
現状では、GDPの高い伸び率は債務負担の増大がもたらしているもので、懸念すべきである。他方GDPの増大のより急速な低下は、中国政府が再び債務管理をしていることを意味し、中国の長期的な潜在成長力につき、より楽観的になれる。
出典:Michael Pettis,‘China’s Counterintuitive Economy’(Wall Street Journal, March 3, 2016)
http://www.wsj.com/articles/chinas-counterintuitive-economy-1457027368
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潜在成長率2~4%で巨額の債務残高も抱える中国
中国経済が債務を大幅に膨張させながら成長してきたことは、よく知られています。その結果、2015年6月時点で、中国の民間非金融部門の債務残高は21兆ドルとなり、ユーロ圏の19兆ドルを上回り、26兆ドルの米国に次ぐ規模となっています(ちなみに日本は6.7兆ドル)。債務残高の膨張に拍車をかけたのが、4兆元(56兆円)に上るリーマンショック対策の大型景気刺激策でした。この対策は債務残高の膨張をもたらしたのみならず、鉄鋼、自動車、住宅などで大幅な供給過剰をもたらし、そのあとを受け、中国は信用の圧縮に努めているところです。
中国の長期的潜在成長率がたかだか2~4%であり、今後10年の中国の成長率は2~4%であってもおかしくない、との解説はショッキングです。
全人代で李克強首相は、2016~2020年の成長率は6.5%以上と述べています。雇用の確保という政治的にも重要な課題に対処するためには、そのくらいの成長率は必要なのでしょう。しかし、大幅な債務残高を抱えたままで、目標が達成できるかどうかは疑問です。すでに2015年の7-9月期の成長率は3%程度しかなかったとの説もあります。
論説は、GDPの伸びの急速な低下は債務の伸びの低下を意味し、債務管理の点から歓迎すべきである、と言っていますが、すでに膨大な債務を抱え、他方で深刻化する雇用問題に対処しなければならない中国経済の現状から言えば、とても歓迎すべきであるとは言えないのではないでしょうか。
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