2024年11月22日(金)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2016年4月1日

 ただ、長期的な潮流として、いまの台湾は「台湾は台湾」という本土路線が主流になっており、中国寄りだと見なされた政治家や政党は生き残りがどんどんと難しくなっている。「小トウガラシ」と呼ばれ、演説もトークもうまい洪秀柱氏は選挙運動の盛り上げを演じてもらうには面白いキャラクターではあるが、中国寄りというイメージがすっかり固まっている彼女は、明らかに未来の台湾政治の主役には不向きな政治家であることは否定できない。彼女の下では、国民党の「本土派」と呼ばれるグループの流出が進むだろう。一度狂った歯車を元に戻すことは本当に難しいのだと改めて実感させられた。

待ちか、攻めか?

 政治において「待つ」ことは、決して意味がないわけではない。むしろじっくりと機が熟するまで待つことができる人間が指導者として大成するという考え方もあった。日本語には「待てば海路の日和あり」とか「果報は寝て待て」など、待つことを推奨することわざもたくさんある。

 日本で待つことによって権力を手にしたのは、かの有名な徳川家康だった。「鳴かぬなら鳴くまで待とう、ホトトギス」という言葉はあまりに有名である。彼は織田信長が死に、豊臣秀吉が死に、多くのライバルたちが死ぬまで待って天下取りに乗り出し、徳川300年の時代を開いたのである。

 一方、半ば勝算がないところで手を挙げて結果的に「当たりくじ」を引いたのは、小泉純一郎氏や現在の首相の安倍晋三氏だ。小泉氏は当時、強い派閥が背後になく、候補としても3番手と見られていた。しかし、結果的に多くの独創的な主張を打ち出して国民人気が高まり、一気に首相に上り詰めた。安倍首相も同様だ。現在の第二期安倍政権が発足する前には、安倍氏は首相になると目されておらず、総裁選になったときも、本人や側近たちは「待ち」の戦略を選ぼうとしたのだった。

 そこで現在の官房長官を務める菅義偉氏が出馬を強く進め、結果的に当選することになったとされている。その後の展開はご承知の通りだが、東京五輪の招致成功、アベノミクスの当初の「成功」などによって、安倍政権はその基盤を固め、いまの日本政治で長期政権をほぼ確実にしている。これも、安倍首相がもしもあのとき「待ち」を選んでいたら、今日の安倍黄金時代はなかったことは間違いない。


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