2023年12月11日(月)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2016年3月10日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト、大東文化大学教授

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

 交渉の大詰めに入り、今週後半か来週の正式合意も取りざたされている台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)によるシャープの買収問題。そのニュースは、もちろん、日本だけではなく、台湾でも大きく報じられている。なにしろ、この買収は、台湾で過去最大の「台湾企業による外国企業の買収」案件である。台湾では、この買収問題は、ホンハイ(鴻海)とシャープ(夏普)の中国語の頭文字を取って、「鴻夏恋」と呼ばれており、ホンハイはもちろん、シャープの知名度も台湾で高いこともあって、非常に大きな関心を集めている。

台湾の三大経済誌のリアクション

 日本でいえば「週刊東洋経済」「日経ビジネス」「週刊ダイヤモンド」にあたるような台湾の三大経済誌「商業周刊」「今周刊」「天下雑誌」(天下雑誌のみ隔週)は、先週発売された最新号でいずれも、ホンハイのシャープ買収に関する総力特集を組んだ(写真参照)。

台湾の三大経済誌(筆者撮影)

 「天下雑誌」のメインタイトルは「郭台銘(テリー・ゴウ)の野心と計算」。取材団を日本に派遣し、この4年間にわたる買収問題の経緯を総ざらいした。そのなかでは「『鴻夏恋』は、台湾にとっては産業構造の転換のきっかけになるかもしれないが、日本にとっては民族の自尊心が奪われることになる」と書いている。日本では、出井伸之・ソニー元社長にインタビューし、「私は郭会長も知っているが、非常に優秀な経営者であり、これほどいい条件でシャープを買うなんて、ちょっと考えにくい」という言葉も引き出している。


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