JETROバンコクの調査によれば、2014年の時点でタイに進出している企業数は4567社。製造業から金融、飲食など業種や規模も多種多様だが、ほぼすべての企業に共通しているのが、タイ人を雇用しているという点。日系企業がタイ人を雇用する場合に重視するスキルが、英語か日本語を話せるということ(レストランなどは特に必要とせず、もはやタイ人ではなく、ラオス人やミャンマー人といったことも多い)。
業務内容はまちまちだが、バンコク郊外の工業団地などでは通訳・翻訳や現場での調整役、バンコク都内のオフィス街では経理や営業といった仕事に就くことが多い。前述した英語や日本語を話せる新卒の現在の月給は、2万5000バーツほど(約7万8000円)と言われ、2〜3年前は1万5000バーツ(約4万7000円)がトレンドだったことを考えれば、人件費の高騰が如実に表れているのがわかる。
日本語を話す多くのタイ人は、子どもの頃からマンガやアニメ、アイドルといった日本文化に傾倒。日本文化に慣れ親しみ、大学に入っても日本語学科を専攻、そして日本に留学。帰国後、仕事でも日本語を使いたいと日系企業を志望するのが王道パターンとなっている。そして、なぜか女性が多く、日系企業で働くタイ人スタッフのほとんどは女性で、男性は全体の2割ほどというのが印象。ここら辺については「南国の男性は働かない」「そもそも難易度の高い日本語を学ぶほどの我慢ができない」といったところに落ち着くのだろうか……。とはいえ、真面目に働いているタイ人男性もいるため、ここでは割愛させていただく。
そこで今回はタイ人目線から「日系企業って一体どうなの?」をテーマに、実際に日系企業に勤める3人のタイ人にインタビューをし、現状を聞いた。
アルミや鉄の製造・販売を行う企業で勤務する女性・プロイさん(仮)は、現在26歳。同社には3年前に入社し、経理や秘書などを担当。日本に留学した経験を持ち、日本語が堪能。就職活動では、何社かの日系企業を受け、同社に決めた理由は「かっこいい日本人スタッフがいたので(笑)」という単純な理由だった。
現在、同社には日本人のスタッフが2名おり、35歳のマネージングダイレクター(通称MD/日本では社長にあたる)、27歳の男性のマネージャーという構成。タイ人スタッフは4名でいずれも女性。タイ人は全員プロイさんよりも年下、そして彼女が日本語を話せるということで、日本人スタッフとタイ人スタッフとの調整役も担っている。前述した通り、主な職種は経理だが、ときには通訳もし、MDをヘルプする秘書業務も行う。労働時間は朝の8時からスタートし、終わるのはだいたい19時半。残業代はしっかりと支払われ(タイの日系企業では常識)、月給は基本給2万7000バーツ+手当てやインセンティブ8000バーツほどで、だいたい3万5000バーツ。タイ人のなかでは、高給取りの部類に入る。
大切な日本人上司のケア
同僚のタイ人にムカつく
今年に入り、経理のシステムが変更されたため、それまではだいたい17時半には終わっていた業務が19時過ぎまでかかるようになった。「プライベートの時間が少なくなりましたね」とボヤきながらも、大きな不満にはなっていないという。「日本人の上司たちがケアしてくれますし、お給料やインセンティブの分配もフェアなので、辞めたいと思ったことは一度もないですよ」と満足している様子。
むしろストレスの矛先は日本人ではなく、同じタイ人だった。「ちょっと忙しくなってくると、『先輩、やってもらえませんか?』って言ってくるんですよ。『自分でやりな!』って突き返しますけど(笑)。タイ人は子どもっぽいんです」。タイは現在、不景気が続くが、同社の業績は順調。入社した当初、月額の売り上げ目標は200万バーツだったが、現在は700万バーツにまで成長し、今後もさらなる飛躍を見込んでいるという。「会社が大きくなってくれることは素直にうれしいですね。辞めるとき? 結婚するまではないでしょう(笑)」。日本人、タイ人との人間関係も比較的よく、給料にも不満がない、ということがプロイさんの大きなモチベーションとなっている。
とはいえ、日系企業に勤めるタイ人のほとんどが満足しているとは限らない。むしろ彼女のような不満がないパターンは少ないのではないだろうか。