2016年の新年が幕開けした。私は、年越しをカンボジアのシェムリアップで過ごした。アンコールワットで初日の出を拝むためだ。朝4時に起き、前日個別に契約したTukTuk(原付タクシー)のドライバーにアンコールワットまで送ってもらう。おそらく3000人以上の人が夜明け前にいたのではないかと思うくらい寺院の前の池は人でごったがえしていた。ちなみに、内3-4割くらいは確実に日本人だった。さすが日出でる国、日本である。待ちに待ってアンコールワットの後ろから現れた太陽の光は、まさに神々しいという言葉がふさわしいほど、まぶしかった。今年もまた、東南アジアでのアツイ一年が始まった。
年明け早々、私は同僚と、シンガポール、そして担当国であるマレーシアの投資家、並びに投資先を一社ずつ周った。電通時代に鍛えたウェットなやり方をここ東南アジアでも貫いてみたわけだが、非常に良い収穫があった。弊社は、圧倒的なソーシング量をコアバリューとしてコミュニティの中でHUB的な存在になりたいと宣言した。今年は、果たしてどんな一年になるのだろうか。新年最初の寄稿は、現地で活動するベンチャーキャピタリストの視点から、情報交換の中で見えてきた、今年の東南アジアのスタートアップのトレンドを紹介したい。
ASEAN共同体はスタートアップにも影響を与え
各国のエコシステムは地域展開により注力する
昨年の12月31日、ASEAN事務局は、AEC(ASEAN Economic Community)の設立、そして活動開始を宣言した。AECは、東南アジアのヒト・カネ・モノの単一市場化を目指し、更なる経済競争力を増すことを目的としている。無論、EUとは異なり、地理的・言語的・文化的にもバラバラなASEANが統一することは難しい。しかしながら、緩やかな共同体として、域内の動きが加速することは不可逆であると言っていいだろう。
政府が主導して行う経済統合の動きは、スタートアップへどのような影響を与えているだろうか。日本からも多くの要人が参加し、昨年の11月下旬にマニラでのAPAC後にマレーシアで開催された東アジアサミットでは、1AES(1 ASEAN Entrepreneurship Summit)というカンファレスが開催されていた。私もこの会議に参加していたが、一つ、確信したことは、それぞれの国のエコシステムビルダーが、連携をとり合う活動を活発化し始めた、ということである。
たとえば、マレーシアのインキュベーション施設MaGICは、ACE(ASEAN Centre Of Entrepreneurship)の開設を1AESに合わせて開設した。ウェブサイトを訪問して頂けばわかるが、ここを訪れると、政府のスタートアップに対する政策、コワーキングスペースやアクセラレーターの情報が一覧化されている。加えて、会社の登記や知的財産、ビザ、税金や銀行サービスなどの各国の情報もまとまっている。
各スタートアップが地域展開を検討する際の基礎情報が集まっていると言っていいだろう。タイでも、C aseanというインキュベーション施設が昨年末にオープンしている。”A Platform for ASEAN” を謳っており、ここで多くのイベントやプログラムを開催する予定である。これまでは各国が各国のスタートアップ創出を目的としたイニシアティブをとっていたが、今年以降、各国がスタートアップの地域展開のためにイニシアティブをとる動きが益々活発化するだろう。