2月6日午前3時57分、台湾の南部を襲った大地震は、巨大な集合住宅のビルが倒壊した惨状のイメージがあまりにも強過ぎるせいで、広範な破壊をもたらした東日本大震災を日本人はイメージしてしまうが、実際のところ、被害現場は台南市のビル1カ所にほぼ集中しており、地震そのものによる被害というよりも、巨大な構造を持つビルがなぜ倒れたのかという点が悲劇の本質である。その意味では、東日本大震災における福島原発の事故とよく似た、地震によって連鎖的に起きる二次災害がむしろ甚大になってしまうケースだ。
今回の地震はマグニチュード6・4、最大震度は6。震源地は台南の隣の高雄市だったが、距離が少し離れた台南市に被害が集中する形となった。断層が台南の方に伸びていたためともされるが、はっきりした原因は分からない。直下型の浅いところで起きた地震で、揺れは8秒ほど続いたという。地震のタイプとしては1995年の阪神・淡路大震災と似ていると地震学者は指摘している。台湾はもともと太平洋火山帯の一部であり、地震活動も活発で年間に100回を超える有感地震があり、震度4レベルの地震は一年中あちこちで起きている。大地震としては99年に台湾中部・台中で起きて2500人もの犠牲者を出した台湾大地震が記憶に残っている。
今回、倒壊したビルは、台南市で9カ所、傾いたビルは5カ所あった。そのなかでも被害はほとんど台南市の郊外にある永康区の「維冠金龍大楼」に集中した。このマンションはA棟からI棟までの9棟ある集合住宅で、低層階は店舗になっており、中層・高層は住居部分だった。地震により、全体がなぎ倒されるように倒壊している。9棟はコの字型につながっており、H棟とI棟が両端で飛び出している。H棟とI棟の下敷きになったA棟とG棟の圧壊ぶりがひどく、被害者の数が集中した形になっている。台南市中心部まで30分ほどで移動できる便利な場所であるが価格が比較的安かったことから若い夫婦が多く入居しており、犠牲者は10歳以下の子供が3分の1近くを占めている。
一斗缶や発砲スチロールが大量に発見
ただでさえ、バラバラにくだけた瓦礫の山を撤去するために救出活動は困難を極めているうえ、二棟分の重みによって次第に瓦礫は沈み込んでいき、その分、瓦礫に挟まれて生き残っていた人々の生存を難しくしている。
9日朝の時点で、死者は40人に近づき、けが人は500人。現在まで連絡がつかない人は100人を超える。台南市の頼清徳市長は8日夜、死者の数が100人を超える可能性があることを認め、重機によって瓦礫を撤去する作業を始めることを決断した。救出のリミットとされる72時間を超えるなか、瓦礫を一つずつ撤去しながらの捜索活動に限界が来てしまった形だが、安否不明の家族を抱えた人々からは重機の導入に抗議する声も上がっている。
倒壊したビルの現場の状況から疑われているのは、構造部分で手抜き工事が行われていた可能性だ。柱の中に、油を入れる一斗缶や発泡スチロールが大量に見つかっており、鋼線の本数も足りないように見えるなど、不自然なところが多い。ただ、一斗缶や発砲スチロールをコンクリートのなかに埋め込むことはコンクリートの重みを軽減するために使われる場合もあり、手抜き工事であるかどうかはすぐには断定すべきではないという専門家の意見も出ている。
もし手抜き工事による倒壊となれば、日本で問題になっている三井不動産・旭化成のマンション手抜き工事問題や、10年ほど前に起きた建築士による構造設計書の偽造問題にも通じる話である。今後、台湾ではマンション建築の安全基準が守られているか全面的に点検を求められる事態になることは間違いなく、日本のマンション業界にも不安が広がる可能性がある。